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「失敗して、考えて、試行錯誤を重ねていくのが僕のものづくりのやり方」映画『夜明けのすべて』三宅唱監督、単独インタビュー

text by 斎藤香

三宅唱監督の最新作『夜明けのすべて』が2月9日(金)に公開される。瀬尾まいこの小説を映画化した。松村北斗、上白石萌音がW主演となり、PMS(月経前症候群)とパニック障害を抱える職場の同僚である男女を演じる。今回は、映画化の経緯やキャスティング、そして監督自身のキャリアについて、たっぷり話を聞いた。(文:斎藤 香)

「恋愛にならない男女関係の物語だから引き受けた」

三宅唱監督。写真:武馬怜子
三宅唱監督写真武馬怜子

―――まず映画化に至るまで経緯について話を伺いたいのですが、瀬尾まいこさんの原作は、2021年春頃、本作のプロデューサーからの提案だったそうですね。この原作に惹かれた理由は?

「シンプルに藤沢さんと山添くんの魅力に惹かれました。2人が個性的で時にはナゾな行動もあって気になる存在で、愛おしいと感じました。

『ケイコ 目を澄ませて』(2022)を映画化する際、僕は「ろう」のことも、ボクシングのことも詳しくなかったため、いろいろと勉強しないと務まらないと思ったので、準備の時間を長くいただいたんです。その際、自分にとって身近ではない題材について調べたり考えたりすることは、とても楽しいんだなと気づきました。

だから藤沢さんが抱えるPMSや山添くんが抱えるパニック障害について、知らないことを知ることができるいい機会だし、今の日本では多くの方がさまざまな理由で思うように働けない、働ける場所やチャンスが少ないと言う現実があり、切実な問題だと感じていたのも背景にあります。

小説を読み終えたあと、年齢や立場が違う人たちが映画を通して、この物語に触れるのは、いいエネルギーをもらえるような、いい風が吹くような気がしたので、自分に演出させていただけたら嬉しいですと引き受けたんです」

―――映画では、松村北斗さんと上白石萌音さんの相性の良さがすごく伝わってきました。恋愛になるのかなと思いきや、そうならないところがすごく新鮮でいい関係だなと。

「映画を見る僕らの思い込みで、男女が登場すれば、きっと距離が縮まって恋愛が始まり、成就すればハッピー、うまくいかなければ悲劇……と思いがちだったなと気づきました。僕らが生きる世の中は、言うまでもなくそれだけじゃない。男女でも恋愛に発展しない付き合いなんてたくさんありますよね。そういう関係性を描ける題材だなと僕も思いました。

だから最初、プロデューサーたちから『なぜこの原作を映画化したいと思ったのですか?』と尋ねられた際には『2人が恋愛関係にならないのが最高だと思いました』と真っ先に答えました。もし、映画では恋愛させたいと言われたら、僕はこの企画から降りようと思っていました。ただしそれは杞憂で、プロデューサーたちも『そうですよね!』と同じ意見だった。それがスタートにあったので、見てくださった方がこの2人の関係性や結末をポジティブに受け止めてもらえるように作ろうと、一貫していました」

―――脚色では、原作の栗田金属が、栗田科学になっていますね。映画の中で移動式プラネタリウムが出てきますが、このプラネタリウムや宇宙について、監督のこだわりはあったのでしょうか?

「タイトルに“夜明け”と入っていて、映画で「夜明け」をどう表現したら面白いか考えていました。あるときに、プラネタリウムのアイデアが生まれて、自分から提案しました。

自分の内側と向き合ってきた主人公たちが、他者と出会い、この街やその過去を知り、地球や宇宙を改めて感じ、囚われていた場所から緩やかに解き放つことができるというイメージです。また自分自身、もともと宇宙とか空が好きなので、小さい頃を思い出せるような、自分の大事な部分を映画に残せる喜びもありました」

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