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ゼロ・グラビティ 演出の寸評

監督を務めたのは、メキシコ出身のアルフォンソ・キュアロン。地元を舞台に低予算で撮り上げた『天国の口、終りの楽園。』(2001)のような小品で冴えた人間描写をみせる一方、『トゥモローワールド』(2004)のような大作では、観客の度肝を抜く驚異的な長回し演出を披露。人間ドラマを盛り立てるオーソドックスな演出力と、視覚的な迫力を追求するスペクタクルな描写力をバランス良く兼ね備えた作家である。

アルフォンソ・キュアロン
アルフォンソキュアロンGetty Images

そんなキュアロンの資質が全面的に発揮されたのが、宇宙空間に取り残された女性のスリルあふれる帰還劇である本作だ。地球を見下ろしながら作業を進めるクルーたちの穏やかな様子から「宇宙ゴミ」の到来によって破滅が訪れるまでをひと息で見せ切る、冒頭のおよそ13分間に及ぶ長回しは圧巻の一言。重力のくびきから解放された美しい楽園が、地獄絵図へと変貌するサマをリアリティ豊かに活写している。

キュアロンが本作に込めた野心は、宇宙空間のリアルな再現やパニックアクションもののバリエーション(異種)によって、観客にスリルを与えることに止まらない。本作は、娘の死によって生きる希望を失っていたサンドラが、混沌とした宇宙空間を脱し、地球に帰還することでもう一度生まれ直すといった筋書きを持つ、実存的なドラマでもある。命からがらソユーズ船にたどり着いたサンドラが宇宙服を脱いで身体を丸める姿は、さながら子宮の中の胎児である。

また、ソユーズ船が大気圏を抜けて湖へと突っ込み、サンドラが湖底から地上へと這い出るシーンは、出産を想起させるイメージで描かれている。本作でアカデミー賞の最優秀監督賞を獲得したキュアロンの演出は、迫力に富んだ映像で観客を楽しませると同時に、生命が誕生するプロセスをメタファーとして示すことで、ちょっぴり崇高な気分に誘ってくれるのだ。

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