ゼロ・グラビティ 配役の寸評
本作の登場人物は実質、ライアン役のサンドラ・ブロック、コワルスキー役のジョージ・クルーニーの2人のみ。また、地球から指示を送る声も重要な役割を果たしており、コントロールセンターの声を務めるのは、名バイプレイヤーのエド・ハリスである。
第86回アカデミー賞において、主演女優賞にノミネートされたサンドラ・ブロックの演技は堂に入っており、見応えがある。鍛え抜かれた肉体は、宇宙飛行士役として十分に説得力があり、擬似的に再現された無重力空間での不自由な芝居を強いられながらも、少ない動作で感情を余すところなく伝えている。
かたや、ライアンの上司であり、命を救うキーパーソン・コワルスキーは、どんな事態に見舞われても平静さを保ち、時には冗談を口にする余裕も。コワルスキーを演じるジョージ・クルーニーは、どんな時でも主人公を励ます「理想の上司像」を体現しているが、その芝居にはほとんど現実味が感じられない。
もしかしたら、百戦錬磨のベテラン宇宙飛行士ならではの達観した態度が見事に表現されているのかもしれない。とはいえ、自身の命を投げ打ってでもライアンを助けようとするコワルスキーの行動は、理解の範疇を超えており、そうした行動の根拠となる内面描写が欠けていため、見様によっては不気味である。
陰影に富んだサンドラ・ブロックの芝居を引き立たせるために、ジョージ・クルーニーの演技はあえてのっぺらぼうであることを強いられており、観る者によっては、両者の掛け合いからは生き生きとしたものが感じられず、図式的で平板な印象が拭えないだろう。