ゼロ・グラビティ 映像の寸評
撮影を担当したエマニュエル・ルベツキは本作でアカデミー賞最優秀撮影賞を獲得。キュアロンとのコラボレーションの他にも、テレンス・マリックや同じメキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの作品でも飛び抜けた映像センスを発揮する、当代随一の撮影監督である。
本作の映像は、ルベツキと特殊効果チームが共同で開発した“ライトボックス”という名の装置を駆使し、宇宙空間での光を綿密にシミュレート。巨大な箱型壁面に、4000個以上ものLEDライトを設置し、地球の反射、太陽、恒星など、あらゆる角度からの光源を再現して得られた映像は、プロの宇宙飛行士も太鼓判を押すほどのリアリティを誇り、観る者を圧倒。3D作品として制作されてはいるものの、宇宙から見た地球の息を呑む美しさ、無重力を体感させるような浮遊するカメラワークは、テレビやパソコンのモニターで鑑賞しても十分に魅惑的だ。
また、ルベツキのカメラは宇宙空間のみならず、舞台が地上に移っても、抜群の冴えを見せる。湖に着水した主人公が地上に這い上がり、土の感触を踏みしめながら歩き出すまでをじっくり収めた長回しのラストカットを見てみよう。ライアンの安堵に満ちた表情と重力に逆らって立ち上がろうとする身体の動きは、地を這うようなローアングルから撮影されており、宇宙空間での自由闊達なカメラワークと対比されることで、原題である「GRAVITY」(重力)をこの上なく見事に表現しているのだ。