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実話の方がやばすぎて怖い…実在の殺人事件がモデルの日本映画5選。事実を知れば見方が変わる作品をセレクト

text by 寺島武志

胸が張り裂ける感覚に陥る、重くて暗い「後味が悪い」映画。出演している役者に感情移入してしまうと、嫌悪感を抱くことも少なくはない。しかし、作品のモチーフとなった事件では、さらに残忍で恐ろしいものが数多く存在する。今回は、実話の方が怖い日本映画を5本、作品の魅力や俳優の迫力と共に、実際の事件も紹介する。(文・寺島武志)

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映画が描かなかった残酷な真実

『誰も知らない』(2004)

柳楽優弥
柳楽優弥Getty Images

上映時間:141分
監督・脚本:是枝裕和
キャスト:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、遠藤憲一、寺島進、平泉成、加瀬亮、木村祐一、清水萌々子、韓英恵、YOU、串田和美、岡元夕紀子、タテタカコ、村野友希、田中慶太

【作品内容】

各々が父親の違う3人の妹弟と幸せに暮らす12歳の福島明(柳楽優弥)。彼らは皆、学校に通っておらず、明以外は家の大家にすら、その存在を知られていなかった。父親についても、その存在がないにも関わらず「海外赴任中」と偽り、そんな中、母親のけい子(YOU)が、20万円を残し、彼らを置いて恋人のもとへ行ってしまう。

当初送られていた生活費が送られてこなくなり、お金は底を尽き、電気・ガス・水道も止められ、生活に限界が近づき始めるが、児童相談所行きを勧められた明は「そうしたら4人一緒に暮らせなくなる」と答え、公園の水やコンビニの売れ残り弁当の譲渡、万引きなどで、命をつなぐサバイバル生活を選ぶことになる。

【注目ポイント】

本作は何といっても、主演の柳楽優弥が14歳の若さでカンヌ国際映画祭において、史上最年少および日本人初の男優賞を受賞した作品として多くの映画ファンに記憶されている。

ドキュメンタリー出身らしく、社会の暗部を詳らかにする是枝裕和らしい作品だが、これは1988年に実際に起きた「巣鴨子供置き去り事件」をモチーフとしている。

現在では「ネグレクト(育児放棄)」という言葉は一般的に使われるようになった。しかし裏を返せば、こうした事件がいかに増えたのかの証明でもある。

映画ではまだ幼い次女がベランダの棚の物を取ろうとして転落し亡くなるが、実際の事件では当時2歳の三女が泣き止まなかったことが理由で、長男の不良仲間から暴行を受けた結果、命を落としている。押入れの上から何度も三女の上に飛び降りるなどの暴行を受け続けたことによる悲劇だった。

実際の事件は、不審に思った大家の通報によって事件が発覚。駆け付けた警察官が部屋を調べたところ、二男の白骨化遺体が発見されるなど、ショッキングなニュースが連日報じられた。

一方、映画『誰も知らない』は、事件が発覚する場面は描かず、亡くなった次女(映画ではディテールがだいぶ異なっている)の遺体を河川敷に埋め、子供たちがいつもと変わらない日常を生きようとする、美しい映像で幕が閉じられている。

本作は、痛切ながらも瑞々しい兄妹たちの心情を描いているが、実際の事件はもっと悲惨で、残酷なものだったのだ。

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