ブギーナイツ 演出の魅力
1970年代後半から80年代前半のロサンゼルスを舞台に、ポルノ映画業界の興隆と没落を描いた、ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)が27歳のときに撮りあげた長編第二作。
ハリウッドでの成功を夢みる青年が、人並みはずれた一物(いちもつ)を武器にポルノスターへとのし上がり、やがて堕ちていく。主人公の栄枯盛衰のドラマを縦糸に、彼を取り巻く業界関係者たちの波乱万丈な生き様がダイナミックに絡み合う展開は見応えに富み、155分の長尺を片時も飽きさせない。
スキャンダラスな題材を描いた問題作であり、完成度の高い娯楽作でもある本作の魅力は、イメージを巧みにレイアウトするPTA演出によって形作られている。
1人の人物を追っているかと思いきや、すれ違う別の人物に焦点を変えるなど、複数のキャラクターに次々と視線を移ろわせていく長回しカットは、シーン全体が発するエネルギーを見事に伝えると同時に、個人が抱える孤独までをも繊細にすくい取る。
また、複数のカットをつなぎ合わせる編集技法にも細心の工夫が施されている。主人公のエディ(マーク・ウォールバーグ)が初めて撮影に臨むシーンでは、レンズをのぞき込むカメラマンの視点から性行為が映し出され、喘ぎ声に合わせるように回転するフィルムの映像がインサートされる。それによって卑猥な印象は中和され、男女の営みそのものではなく、それを記録する過程が強調されるのだ。
他にも、紙芝居のように映像がスライドして切り替わるワイプ、2つの映像が重なるようにしてつながるオーバーラップ、スクリーンを分割してそれぞれに違う映像を見せるスプリットスクリーンなど、多彩なレイアウトが駆使され、複数のストーリーラインが見るも鮮やかに整流されている。
若干27歳にして異色の群像劇を堂々たる演出で描ききったPTAは本作を皮切りに、商業路線でもなく芸術路線でもない、独自の道を突き進むことになる。