ブギーナイツ 脚本の魅力
本作の元となったのはPTAが高校時代に撮り上げた映画『ダーク・ディグラー物語』(1988)である。実在するポルノ俳優・ジョン・ホームズの生涯に着想を得たドキュメンタリータッチの短編は低予算の自主制作映画であり、映画としての完成度は後の作品に比ぶべくもない。
他方、映画づくりの喜びや情熱は端々にほとばしっており、『ダーク・ディグラー物語』の制作経験は、ポルノ映画制作に命をかける人々を描いた本作の物語に深い影響を与えている。
その証拠に、『ダーク・ディグラー物語』が主人公の病死で幕を閉じるバッドエンドであるのに対し、リメイクである本作ではどん底を経験した登場人物たちが再集結し、映画づくりに再び情熱を燃やそうとする、前向きなラストに変わっているのだ。その点、本作はPTAのフィルモグラフィの中でも、最も素朴に映画への愛が標榜されている作品かもしれない。
かつてのポルノ業界の内幕を荒唐無稽なエピソードを積み重ねてコミカルに活写し、時代に取り残されていく登場人物たちを容赦なく追い込んでいく脚本にはスケール感があり、エモーションの振れ幅が広く、名作の骨格が備わっている。
群像劇として高い完成度を示す一方、登場人物はことごとく直情的であり、金とドラッグに深く魅了される危うい存在として描かれている。下半身のコミュニケーションを何よりも重視するポルノ業界を描いているからか、心を惹きつけるセリフ表現が少ないのも気になるところだ。
とはいえ、皮肉を込めて描かれる“下半身至上主義”的な価値観や「才能に恵まれた男の栄光と破滅」というテーマは、次作『マグノリア』(1999)以降の作品で深く探究されることになる。PTAがデビュー前から温めていたアイデアを全面的に出し切った本作は、作家性がむき出しになった原石であり、洗練されていない分、粗野な魅力が詰まっているとも言えるのだ。