「黄色いベスト運動」から受けた影響について
——前作『群がり』ではイナゴを、本作では酸性雨と何処となく、旧約聖書に記された“十の災い”※1を思い起こさせますが…。
「『群がり』の脚本は私が書いたものではないから、私自身が“十の災い”を特別意識しているわけではないんだよ。『群がり』で描きたかったのは、自然はそのままであるべきなのに、人間が怪物を生み出してしまっているということだね。
余談だけれど『群がり』のスタッフに日本人がいてね、「この脚本は自然を敵視している」と言われたことがあったんだ。西洋と東洋の考え方の違いだと思うけど、彼の話はとても興味深かったね」
——『ACIDE/アシッド』最大の見所でもある酸性雨によって民衆がパニックを起こすシーンは、“指導者がいない”群衆の怖さが際立っていました。2018年フランスで発生した「黄色いベスト運動」※2の騒乱を思い出せますね。
「パニック場面は「黄色いベスト運動」を反映させたのはそのとおりだよ。全てを破壊する紛争がもたらす怖さだよね。父親のミシャルを典型的な時限爆弾型の性格として描いたのもその影響だよ。彼は、自身も理解できないタイミングで「ドン!」と感情を爆発させてしまう男なんだ」
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※1十の災い 旧約聖書の「出エジプト記」に記された、イスラエル人の解放を求めるために神がエジプトに下した十の災害。以下の十個がある。
ナイル川の水が血に変わる
カエルの大発生
ブヨ(またはシラミ)の発生
アブ(蝿)の大量発生
家畜の疫病
悪性の腫れ物(膿瘍)
激しい雹の降り
イナゴの大量発生
暗闇が三日間続く
エジプトの全ての長子の死
※2黄色いベスト運動2018年にフランスで始まった燃料税増税への抗議から発展した反政府運動で、深刻な社会的不平等への不満がきっかけ。暴力的な衝突や経済的損失を引き起こし、多くの怪我人や破壊行為が発生した。