「酸性雨が鏡になっているんだ」
観客一人ひとりが自己と向き合う映画に
——フランスではどのような反応がありましたか?「黄色いベスト運動」かなり批判の的にされた事件でしたが。
「うん。観るのは辛かったと思うよ。本作をパリ市庁舎で上映したことがあったんだ。場所が場所だから年齢、性別問わず沢山のお客さんが来てくれたんだけどね。
ある高齢者の女性が手を上げて「私この映画、大嫌い」と言ってきたんだよ。すると今度は女の子が「これは私たちのことを描いている映画だよ! 大好き!」と反対意見を叫んだんだ。
映画は、沢山の人に観て貰うことが大切だと思う。たとえば“水”をテーマにしただけでも、“洪水”や“干ばつ”といった様々な描き方があって、そしてその反応も様々。映画は本当に楽しい芸術だと思うよ」
——その点『ACIDE/アシッド』は鏡のような映画ですね。自分を観る映画だと思いました。
「そのとおりだよ。酸性雨が鏡になっているんだ。心理学でいう「ミラー現象」ていうんだけど、観客が観客だけとしてではなく、映画の中の出来事を体験して、自分としてどう捉えるか? 自分ならどうするのか? 映画の余白の部分を埋めることで、深く楽しんでほしいな」
【取材を終えて】
ハリウッド的なディザスター映画の多くが典型的な家族愛を賛美している。その点、『ACIDE/アシッド』は一筋縄ではいかない映画だ。
災害に直面したとき、家族が本当に愛で結ばれ、友人や隣人が協力しあって乗り切っていけるのか? “良い家族”とはなんだ? “善”とはなんだ? 天から降り注ぐ災害を“鏡”に模し、貴方自身を映し出す。自分自身を見つめるディザスター映画が『ACIDE/アシッド』なのだ。
(取材・文:ナマニク)
【作品情報】
監督・脚本:ジュスト・フィリッポ
ギヨーム・カネ、レティシア・ドッシュ、ペイシェンス・ミュンヘンバッハ
2023年/フランス/100分/フランス語/4Kシネスコ/カラー/5.1ch/原題:ACIDE/日本語字幕:星加久実/配給:ロングライド
8月30日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
公式サイト
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