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労作だった『哀れなるものたち』

憐れみの3章
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 ただし誤解してはならないのは、もはや映画界きっての異端的黄金コンビとして君臨することとなったエマ・ストーン&ヨルゴス・ランティモスは、コンビ作『女王陛下のお気に入り』(2018)と『哀れなるものたち』での成功に気を良くして、今回の『憐れみの3章』に着手したわけではないことである。

『憐れみの3章』の企画立案は、キーパーソンであるエマ・ストーンが共同プロデュースに参画し、『哀れなるものたち』と並行して進められ、『哀れなるものたち』の仕上げ作業と『憐れみの3章』の準備作業は同時に進行していった。『哀れなるものたち』がヘヴィ級のプロダクションデザインとスタジオワークを要し、関係者一同を消耗させるビッグプロジェクトであったことは想像にかたくない。じっさいランティモスは、『憐れみの3章』の製作がよりシンプルなものになることを正直に喜んでいる。

「映画製作につきものの複雑さはあるものの、ロケ地を見て回り、ゼロから撮影場所を作る必要がないことは肩の荷が下りた気分でした」(プレス配布のオフィシャルインタビューより)

 ランティモス本人のこの「肩の荷が下りた」というひとことの中に、いかに『哀れなるものたち』の完成までの道のりが骨の折れるものだったかが想像できよう。ランティモスの英語作品の仕切りをずっと担当してきた下請け会社エレメント・ピクチャーズのエド・キニーとアンドリュー・ロウも、ニューオーリンズ市周辺だけで展開される今作が、前作よりも進行させやすいプロジェクトだととらえていた。「この作品はロケが中心で、自然光照明と現代的な衣裳を使っているため、それほど複雑なものではないと感じました」と述べている。

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