人口装具で口元を変形させて役作りに挑む
名優たちの極上のアンサンブルに注目
エマニュエルの父・アンドレは一代で財産を築き上げた元実業家で、かなりの自信家。病室でも同室の患者と喧嘩をしたり、娘に意地悪なことをいったりとやりたい放題で、エマニュエルたちも相当に手を焼いている。しかし、普通であれば鼻つまみ者扱いされるはずの彼だが、彼自身のあっけらかんとした明るさや天性のユーモアもあってか、なんともいえぬ魅力を醸し出している。
とりわけ、娘たちの前で自らの死を望む姿などはまるで駄々っ子のようで、愛おしさすら感じられる。毒舌で頑固、ワガママだけど魅力的。そんな複雑なキャラクターを体現できたのは、ひとえにアンドレを演じるデュソリエの演技力の賜物だろう。ちなみに彼は身体に麻痺が残るアンドレ役を演じるため、頭を剃り、人口装具で口元を変形させて撮影に臨んだのだという。
また、主演のソフィ ・マルソーも負けてはいない。彼女は、無遠慮な発言を浴びせる父や、真っ直ぐで健気な妹の前では「一家の姉」として気丈に振る舞いつつも、夫の前では自分の弱い一面を曝け出す。そんな二面性のあるエマニュエルを、抑制の利いた演技で表現している。
最期の日を決めた父は、リハビリも功を奏し、徐々に麻痺も解けていく。そして彼は孫の演奏会や懐かしい友人との食事など、次から次へと新しい予定を入れ、しまいには「決行日」を遅らせたい、と言い出し始める。この報告についに父の気持ちが変わったと喜ぶ娘たち。しかし、父はやりたかったことをひとしきりやり終えると、再びスイス行きの日取りを決めはじめる。そして、「決行日」の前夜。父をスイスに送ろうと救急車を待つ娘たちに、倫理や法律、宗教といったさまざまな壁が立ちはだかる。
果たして父は安楽死を決行するのか。それとも誰かが止めるのかー。続きはぜひ劇場で確認してほしい。
(文・柴田悠)
『すべてうまくいきますように』2/3(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ 他公開。
【作品概要】
監督・脚本:フランソワ・オゾン(『ぼくを葬る』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』)
出演:ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディン・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ、エリック・カラヴァカ、グレゴリー・ガドゥボワ
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES
2021│フランス・ベルギー│フランス語・ドイツ語・英語│113 分│カラー│アメリカンビスタ│5.1ch│原 題:Tout s’est bien passé
字幕翻訳:松浦美奈│映倫区分:G
公式サイト