万華鏡のようなめくるめく魔術の世界ー映像の魅力
先述の通り、本作が一般的なヒーロー映画と異なるのは、映像表現の凄まじさにある。
まずは冒頭、エンシェント・ワンとカエシリウスたちのローマでの戦闘シーンでは、ミラー次元の中に入った彼らが重力を90度反転させ、建物の壁面で戦闘が繰り広げられる。
このシーンでは、はじめに建物全体のレリーフが生き物のように動いたかと思うと、続いて建物がめくれ上がり、カエシリウスたちに襲いかかる。『インセプション』(2010年)の夢のシーンさながらの描写に思わず見入ってしまうこと請け合いだろう。
ニューヨークでの戦闘シーンでは、この描写がさらにパワーアップ。はじめはビルの壁面で戦っていたストレンジたちだが、徐々に街そのものが解体し、上下左右がなくなっていく。ビルや道路がバラバラになり浮遊する中で繰り広げられるアクションは圧巻の一言だ。
そして極め付けは、香港での戦闘シーンだろう。このシーンでは、それまでの空間操作に加え、時間操作の要素がプラスされており、そのため、時間が逆行し、破壊された街が戻っていく中でストレンジとカエシリウスが戦うという、映画史上類を見ないシーンを拝める。
また、この香港のシーンでは、『マトリックス』作中の「マトリックス避け」でおなじみの「バレットタイム」(被写体の周りを複数台のカメラで囲って一斉にシャッターを切る撮影技法)もあちこちで使われている。
そう考えると、本作は『マトリックス』や『インセプション』といった従来のSF映画のひとつの到達点と言えるかもしれない。