オカルトホラーの金字塔ー演出の魅力
映画史最恐のシリアルキラーを世に送り出した『13日の金曜日』(1980)や、モキュメンタリーの手法でリアルな恐怖を描いた『パラノーマルアクティビティ』(2007)、そして、Jホラーの恐怖を世界に知らしめた『リング』(1998)ー。
ホラー映画の中には、エポックメイキングとなる作品がいくつか存在する。この『エクソシスト』も間違いなくそんな作品の1つだろう。
原作はアメリカの作家ウィリアム・ピーター・ブラッティが1949年に実際に起こった「メリーランド悪魔憑依事件」をもとに描いた同名小説で、監督は『フレンチ・コネクション』(1971)で知られる名匠ウィリアム・フリードキン。主人公のクリスをエレン・バースティンが演じる。
『エクソシスト』といえば誰もが思い浮かべるのが、悪霊に取り憑かれた少女リーガンを演じるリンダ・ブレアの「怪演」だろう。とりわけ、ベッドから身を起こしたリーガンの首が360度捻じ曲がるシーンや、ブリッジ状態で階段を下っていくシーン(通称:クモ歩き)の恐ろしさは、公開から50年を経た現在も全く色あせない。
本作は、こういったショッキングなビジュアルから、悪魔やゾンビ、怪物などが物理的な攻撃を仕掛けてくるようなエンターテインメント性の高いハリウッドホラー作品とみなされることが多い。しかし、本作には他のハリウッドホラー作品とは一線を画した点がある。それは、悪魔が「目に見えない」ということだ。
クリスははじめ、リーガンの奇行に医学的な解決を図ろうとしており、娘に取り憑いていたのが悪魔かどうかについては最後まで明言していない。エクソシストたちが悪魔祓いを行ったから悪魔と同定されただけで、本当の原因は最後までわからないのだ。
こういった描写から思い起こされるのは、クリスが開催したパーティーのシーンだろう。このシーンでは、クリスが出演している映画の監督であるパークがスイス人の執事カールに「ナチの残党だ」と絡む。その姿は原因不明の何かに侵されたリーガンに悪魔祓いをしようとするカラス神父やメリン神父に重なって見える。
つまり、本作で描かれているのは、伺い知れない他者の内面に巣食う脅威なのだ。そういった意味で、本作は『シャイニング』(1980)などのモダンホラーの嚆矢といえるかもしれない。
なお、本作は、アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など主要9部門にノミネートされ、脚色賞、音響賞を受賞(ホラー映画の作品賞ノミネートは史上初)。さらに全世界で4億4107万ドルを記録する大ヒットを記録し、国内でも同年の洋画第1位を記録するなど、大きな社会現象を巻き起こした。
そして、本作はその後他のヒットホラー映画同様にシリーズ化。
『エクソシスト2』(1977)では『エクスカリバー』(1981)のジョン・ブアマンが、『エクソシスト3』(1990)では原作者のブラッティがメガホンを取っているほか、2023年に制作された『エクソシスト 信じる者』では、第1作の主演エレン・バースティンがサプライズ出演している。これらの作品も機会があればぜひご覧いただきたい。