世界最強の軍事国家アメリカ
本当の正念場はゴジラを倒した後にやってくる!?
巨大モンスターがアメリカを襲う想定での上陸地点は、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008)やローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA』(1998)、あるいは『キングコング』シリーズのようにニューヨークとなるか、あるいは2014年のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』や、『パシフィック・リム』(2013)の冒頭設定であったような、サンフランシスコなど西海岸の大都市群になるかのように、我々は刷り込まれている。
しかし実際のアメリカは広く、様々な上陸地点が想定される。そこでまずアメリカを大きくエリア分けすると、まずは太平洋と大西洋岸に二分され、それぞれが南北に分割される。これにアラスカとカリブ海沿岸を加えれば、大きく六分割されたアメリカの国土において、ゴジラ上陸を考えることになる。
もしアメリカ大統領の立場であれば、上陸範囲としてもっとも対処が容易なのは人口が少ないアラスカで、次に太平洋岸北側、次にカリブ海と大西洋岸南部ということになろう。避けたいのはニューヨークやワシントンD.Cがある大西洋岸北部と、カリフォルニア州がある太平洋岸南側だ。
しかし、どこに上陸されてもアメリカは揺るがない。ゴジラには辛い戦いしかない。というのも、アメリカにはすでにゴジラへの即応体制ができているからだ。それが合衆国州兵である。
アメリカには40万を超える陸軍、空軍州兵が存在する。彼ら州兵は、毎月1回の週末と年に2週間の訓練に参加することが義務づけられており、応召されればすぐに戦力となる存在だ。装備には外征型の攻撃兵器こそ少ないが、戦車や装甲車、対空ミサイルのほか、空軍力まで擁している。
州兵の指揮命令権は各州知事に委ねられているので、即応の動員規模は数千程度であるが、このようなことができる国家は、アメリカ以外にはない。また最強州兵を持つと言われるテキサス州の場合、2万を超える州兵を抱えているので、一見手薄なカリブ海にゴジラに上陸されても、それを迎撃するのが最強州兵という罠になっている。
他に戦力の大きさでピックアップすると、カリフォルニア州(太平洋岸南部)、ペンシルベニア州(大西洋岸北部)、ニューヨーク州(大西洋岸北部)、ジョージア州、フロリダ州(大西洋岸南部)と、どこに上陸しても強力な州軍が待ち構えている。
仮に州軍がへまをしてゴジラの内陸侵攻を許したとしても、その状況になれば合衆国軍、つまり我々が知るアメリカ軍の攻撃が待っている。1~2都市がゴジラの放射熱線により大損害を受けていても、アメリカ自身は揺らぐことはない。
ただアメリカの問題はゴジラを倒してしまった後だ。現在、アメリカ社会は深刻な階層の分断に苛まれている。そのことに深入りする余裕はないが、単なる貧富の差だけでなく、ジェンダーや人種、政治思想、宗教、環境問題への取り組みなど、ありとあらゆるものが社会の対立要因となり、他罰的な言動や行為の横行に社会が萎縮し、不満がマグマのように煮えている状態だ。
その場合、ゴジラの排除や対応が新たな社会的分断の要因になるのではないか。始まりが動物愛護や環境問題であったとしても、それはやがて信仰を揺さぶり、予測のできない反応を導くかも知れない。それはゴジラの被害予測より難しい。