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全てを白日の下に晒す暴力ー映像の魅力

スティーブ役のガブリエル・バーン【Getty Images】
スティーブ役のガブリエルバーンGetty Images

本作には、アリ・アスターらしい斬新な映像表現が随所に散りばめられている。

例えば、アニーがジョーンの部屋に向かうシーンでは、『ミッドサマー』でも登場する天地が反転する演出が登場する。民俗学でいう「股のぞき」(自分の股から顔を出し、世界をあべこべに見る風習)を連想させるこのカットは、アニーが異界に足を踏み入れたことをこの上なく分かりやすく表現している。

チャーリーの埋葬シーンでは、埋葬される棺に合わせて、ゆっくりとカメラが下がっていき、芝生ギリギリまで下がったかと思うと、なんと、そのまま土の断面を映し、フェードアウトする。いささかあからさまにも思えるが、印象的なカットだ。

また、終盤のカルト教団のシーンでは、信者たちが皆服を脱いで全裸になっている。登場人物が全裸になるという展開は『ミッドサマー』や『ボーはおそれている』といったアリ・アスターの他の作品にも登場している。

そう、アリ・アスターの作品は、いつでも露骨なのだ。現に『ミッドサマー』では、影が一切ない世界で、人々の狂気を暴き出している。そこには、陰謀や策略といった暗部すら存在しなかった。見えるもの全てを白日の元に晒し、あるものをあるがままに映す暴力が、彼の作品には胎動している。

一方、本作の場合はどうか。アニーがジョーンの交霊会に参加したとき、彼女はコップが勝手に動いたのを目の当たりにし、何かトリックが隠されているのではないかと机の下を確認する。しかし、そこには何も隠されていない。

つまり、本作の場合は、目に見えるものをありのままの姿で描き、「タネも仕掛けもない」ことを描くことで、むしろ「目に見えないもの」の恐怖を際立たせているのだ。

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