「なぜ人は生きるのか…」
引き伸ばされたアクションによって哲学的な問いを突き付ける
各都市の特色を際立たせようとすると、どうしてもステレオタイプな表現になる。ちなみに、日本パートでは戦闘シーンで弓矢が使われる。リアリズムに反しているのはもちろん、「日本っぽさ」を過度に意識するあまり、意外性を欠いた既視感のある表現が散見できるのも事実だ。
とはいえ、永遠に終わらないのではないかと思わせるアクションの持続が、ほとんどギャグすれすれの印象を与えながらも、観る者の心を震わせるのは、ジョン・ウィック=キアヌ・リーヴスの特異な生き様を浮き彫りにしているからではないだろうか。
そもそも、ジョン・ウィックが命を狙われることになったのは、亡き妻の形見である愛犬を殺され、復讐のためにロシアン・マフィアを皆殺しにしたことがきっかけであった。『ジョン・ウィック3』までは、彼が追われることになった根本原因(物語の起源)が、物語の随所で振り返られるの対し、本作ではそうしたシーンがほとんどなく、なぜ主人公がこんなに酷い目に遭わなければいけないのか、観ていてよくわからなくなる瞬間が何度もある。
また、通常のアクション映画では、主人公の生きる目的(家族のため、復讐のため)が明確であるのに対し、キアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィックは、防衛本能に身を任せて敵を倒し、逃げるように、あるいは流れるようにステージを突き進んでいく。彼が求めるのは”自由”に他ならないが、自由を得た先にある”幸福”という観念がすっぽり抜け落ちているのだ。なぜなら彼が愛する者たちはすでにこの世にいないから。
では、なぜジョン・ウィックはこれほど辛い思いをしてまで(時には他者の命を奪いつつ)、生き続けようとするのか。一切の共感を寄せつけない彼の生き様を見ていると、生きるということの根本的な理不尽さ、誰かのためではなく、”ただ単に生きること”の困難が、象徴的な形で描かれていると思わざるを得ない。
なぜ、私たちは生きるのか。我々の人生と無縁ではない、普遍的な問いを観客に突き付けるために、169分という、アクション映画としては異例とも言える長い時間が必要だったのではないだろうか。
(文・灸怜太)
【作品情報】
監督:チャド・スタエルスキ
出演:キアヌ・リーブス、ドニー・イェン、ビル・スカルスガルド、ローレンス・フィッシュバーン、真田広之、リナ・サワヤマほか
配給:ポニーキャニオン
原題:JOHN WICK:CHAPTER4(2023/アメリカ)
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