名俳優たちの演技合戦を見届けよ
そしてなによりも、名優たちの演技が凄い。ウィリアムを演じるデ・ニーロは、もう観客が期待するデ・ニーロ100%。父性と権威に満ち、慈愛があるけど冷徹で恐ろしい。ディカプリオ演じるアーネストに無茶振りを繰り返すのだが、あの顔と声で命令されたら、そりゃ従ってしまうよという説得力がある。
アーネストは、根は悪い人間ではない。人間的魅力や野心、そして妻モリーや家族への愛。それらをちゃんと持っているのだが、少しずつ足りない。そのもどかしさが、とことん人間くさく、身につまされる。
演じるディカプリオは、その多面的なキャラクターを奥深く表現。特に感情をさらけ出したような顔芸が全開で、終盤の裁判の時に見せる、絵に書いたような「ヘの字口」は必見だ。
その妻、モリーを演じるリリー・グラッドストーンの演技力にも目を見張る。同じ視線、同じ表情なのに、無垢にも妖艶にも見えるし、慈愛も冷たさも感じる。壮絶な毒の盛られっぷりも圧巻だ。
物語は史実に基づいているので、ノンフィクション的な展開に終始し、事実以上に盛り上げようとしない。事件の解決に動くGメンたちもカッコいいが、その活躍もあくまで淡々と描かれる。
この作品はタイトルに「キラーズ」とあるように、様々な殺人が描かれ、無情な死に様が積み上げられていく。
その表現はスコセッシならではの乾いたバイオレンス、とも言えるが、もっと達観している。生まれて、生きて、食べて、寝て、愛して、殺す。人間の当たり前の営みとしての殺人が描かれていく。