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観る者の胸を打つエンプティショット

映画『枯れ葉』
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 なぜか別れる前に名前さえ伝えあっていなかった二人は、すれ違い続ける。待てど暮らせど、アンサには電話はかかってこない。一方、帰宅後にメモをなくしてしまったことに気づいたホラッパは、一緒にカラオケに行った友人を頼るが、有益な情報は得られない。どうしても諦められない彼は、唯一の手がかりを頼り、再び彼女と別れた映画館の入り口へと向かい、そこで張り込みを続ける。いくら煙草を吸って時間をつぶしても彼女は現れず、足元に溜まった大量の吸い殻を残して彼は帰宅する。

 折悪く、ホラッパが帰路についた後でアンサが映画館にやって来る。またも二人はすれ違ってしまうのか。だが、ここでアンサは、ホラッパが落としたメモとは異なる、ある白い塊に気がつく。誰かがそこに長時間立っていたことを示す大量の煙草。単なる地面に落ちたゴミを捉えただけにも見えるエンプティショットが、ここまで映画を追ってきた観客たちにとっては、まるで異なる意味を帯びる。

 かつて果たして、踏みつけられた吸い殻のみを捉えたこれほど胸を打つショットが存在しただろうか。そう、今度は特に意識することなくホラッパが「捨てた」吸い殻こそが、二人を再会させるのだ。

 ホラッパは酒の持ち込みがバレてクビになるもなんとか別の現場に再就職を果たし、後日の夜に再び映画館へと向かう。吸い殻から彼の存在を確信していたかのようなアンサがそこに現れ、無事映画館の前で再会できた彼に今度は自宅の住所を書いたメモを渡し、夕食に誘う。もらったその場で財布にしまう万全の対策で今度はメモを無くさなかった彼は花を買い、アンサも食器や食前酒を買って、ディナーに備える。

 無事家に着いたホラッパは、アンサの部屋で楽しい時間を過ごす。だが、デートが成功したと思ったのも束の間、食後に音楽をかけようとしたアンサがラジオをつけると、ウクライナ侵攻の報道が流れ、二人の間に緊迫した空気が流れる。さらにこれ以上家に酒がないと聞いたホラッパは、何を思ったか上着に隠していた酒をあおりはじめる。父と兄をアルコール中毒で亡くしていたアンサは、アル中はまっぴらだと怒る。指図されるのはまっぴらだと返したホラッパは家を飛び出し、アンサは彼のために買ったはずの新しい食器をゴミ箱に勢いよく投げ捨てる。

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