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命懸けで撮られた映像を「フェイクニュース」と断じるロシア陣営

C2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

ロシア軍の攻撃はついに、唯一残った産婦人科病院をも標的とする。妊婦や生まれたばかりの乳児も犠牲となるが、何とか攻撃から免れた妊婦が、外科の手術室でお産に臨む。取り出した赤ちゃんは泣き声を出さず、暗澹とした空気が流れるが、医師らが必死に赤ちゃんの体をさすると、元気な泣き声を発し、それと同時に医療スタッフは安堵の思いと感激から、母親ともども涙する。

数え切れないほどの「死」を描いた中で、唯一、「生」を感じさせるこのシーンには、思わず心を揺さぶられる。

命懸けの取材を重ね、映像を脆弱なネット回線で編集局に送信していたチェルノフ。当然、世界中でその衝撃的な映像が報じられるが、ロシアメディアは「フェイクニュース」として報じる。このシーンについては、怒りを通り越して、憐みを含んだ嘲笑しかない。そして同時に、プロバガンダの恐ろしさを見せつけられる。

この作中で、プーチンとゼレンスキーの両大統領は、それぞれ1度しか登場しない。それもニュース映像のシーンを映し出したに過ぎない。戦況がどうなっているかも分からないまま、その戦争の中心にいるチェルノフや、マリウポリ市民にとっては、両国の政治的駆け引きなど、どうでもいいことであり、人道回廊を設ける話すら全く前に進まない現状に、不信感ばかりが募っているのだ。

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