息が詰まる97分
マリウポリでの取材活動から20日、チェルノフらAP通信の取材クルーは、ついに街を後にする決意をする。しかし街はすでにロシア軍に包囲されており、国境を越えるのも命懸けだ。赤十字が作った車の隊列に紛れ、撮影機材を隠しながらの脱出劇だった。
その時、チェルノフの思いは想像するしかないが、市民を残してマリウポリを出ることに、葛藤があったはずだ。
しかし同時に彼はジャーナリストであり、家庭に戻れば父親でもある。その使命を十二分に果たした彼の勇気は、称賛に値するだろう。
97分という上映時間が長く感じる作品だった。それは退屈だったということではなく、あまりにも過酷な現実を見せ付けられ、辛くなってくるからだ。
戦争となると、女性や子どもが真っ先に犠牲となる。話としては理解しているつもりでも、そんな常識を見える形で示されると精神的に堪えるのだ。特に、血みどろになったまま死んでいく子どものシーンにはショックを受けた。
想像していた以上に衝撃的なドキュメンタリーであり、同時に、これが「戦争」なんだと思い知らされた。開戦からわずか20日の間に、これだけの出来事が起き、マリウポリは、チェルノフらが脱出した直後に陥落。そして、ロシア軍のウクライナ侵略戦争は2年経った現在も続いている。
その凄惨さから、見るにはある程度の覚悟が必要な作品ではあるが、“現在進行形”の出来事を描いているという点で、高い評価も納得できる作品といえるだろう。
(文・寺島武志)
【作品概要】
原題:『20 Days in Mariupol』
監督・脚本・製作・撮影:ミスティスラフ・チェルノフ
スチール撮影:エフゲニー・マロレトカ
フィールド・プロデューサー:ワシリーサ・ステパネンコ
プロデューサー・編集:ミッチェル・マイズナー
プロデューサー:ラニー・アロンソン=ラス、ダール・マクラッデン
音楽:ジョーダン・ディクストラ
字幕翻訳:安本熙生
配給:シンカ
2023年/ウクライナ・アメリカ/ウクライナ語・英語/97分/カラー/16:9/5.1ch/G
©2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation
公式サイト
公式X
公式Instagram