主人公・カナを「新しい女性像」と全肯定することにためらいを覚えるワケ。映画『ナミビアの砂漠』がもたらす反発と共感
第77回カンヌ国際映画祭国際映画で、女性監督として史上最年少で批評家連盟賞を受賞した映画『ナミビアの砂漠』が公開中だ。監督、脚本・山中瑶子、主演・河合優実がおくる、今までになかった青春映画。河合扮する主人公・カナの生き様にフォーカスし、本作の見どころに迫る。(文・佐々木チワワ)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:佐々木チワワ】
’00年、東京生まれ。幼稚園から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、大学ではフィールドワークと自身のアクションリサーチを基に”歌舞伎町の社会学”を研究。主な著書に「歌舞伎町モラトリアム」(KADOKAWA/’22年)、「『ぴえん』という病 SNS世代の消費と承認」 (扶桑社新書/’21年)「ホスト!立ちんぼ!トー横! オーバードーズな人たち ~慶應女子大生が歌舞伎町で暮らした700日間~」(講談社/’24年)がある。また、ドラマ「新宿野戦病院」(フジテレビ系)など歌舞伎町をテーマとした作品の監修・撮影協力も行っている。
歌舞伎町のシーンで想起した強制的に「女体」になる経験
「私たちの映画」「今の時代にこの作品が生まれて嬉しい」そんな声が同年代から聞こえる、映画『ナミビアの砂漠』。美容脱毛サロンで働く主人公、21歳のカナ(河合優実)が東京で生きる様は生々しい。友人に呼び出されたカフェでは共通の友人が自殺したことが話題に上がるが、カナは上の空。横の男たちの「ノーパンしゃぶしゃぶ」という超絶前時代的な風俗の話と店内のBGMが混ざり合っていく。
一見すると、ダメ男ならぬダメ女を主人公に置きながら、東京で暮らす今の若い女性の生きづらさを描いた作品とも言える。しかし、私はそれ以上に現代の女性の持つ「加害性」の描き方がどうにも引っかかってしまった。
映画の序盤、落ち込んでいる友人を楽しませる場所として2人が訪れたのはホストクラブ。イチカは楽しそうな一方で、終始つまらなさそうなカナ。女性2人の温度感の差をしっかりと描いていたのに感心した。
後にカナが1人で歌舞伎町を歩いていると、その時のホストが「また初回でいいからおいでよ」と声をかける。カナはおそらく、ホストに数万も使わない。そういう類の女じゃない。解釈一致! と映画を見ながら心の中で叫んでいた。
そしてその後、歌舞伎町を歩きスカウトに声をかけられるシーンもやけにリアルだ。「お姉さん色白いね」といった褒め言葉から、徐々に「性的資本」としての評価の声かけに変わる。
うざいスカウトは、反撃したカナに罵声を浴びせる。それに対し、その女の金で食ってんだろ、と言い返せるカナはかっこいい。繁華街を歩いた女なら一度は体験するあの嫌で、でもどこか自分に価値があるかも、と思いそうになる絶妙な声掛けのシーンがひどく印象に残っている。