プリシラを「被害者」ではなく主体性を獲得するひとりの大人として描くために
劇中の言葉でもあったようにまだ「子供」の14歳のプリシラを24歳のエルヴィスが部屋に誘う冒頭の展開から危うさは不可避的に漂いつづけ、『プリシラ』におけるこの側面は、性差のある関係に孕む権力構造に意識が高まりつつある現代的な感受性を携えている。
しかしながらエルヴィスをグルーミングの加害者として描けば描くほどにプリシラを被害者の位置に追いやってしまうことに自覚的なこの映画は、その鬩ぎ合いの上で綱渡りしているに等しい。コッポラはきっとプリシラを「被害者」ではなく、主体性を獲得するひとりの大人として描きたかったはずなのだから。
ラストシーンで、プリシラはグレースランドを脱するために車をひとり走らせる。そのときコッポラは用意周到にプリシラが門の方を見る主観ショットを差し込み、彼女の新たな人生の再出発が彼女自身のまなざす道であることを的確に伝えるだろう。
コッポラの映画において自動車は重要なモチーフであるとはよくいわれてきたが、この『プリシラ』のラストショットと『SOMEWHERE』(2010)のファーストショットは、いわば対だといえる。『SOMEWHERE』のファーストショットでは人生に迷うハリウッドスターの男が車を円環状に走らせていたが、『プリシラ』のラストショットでは自分の道を歩むと決めた女が車を一直線に走らせる。
静謐さを湛えるコッポラのフィルムは、自動車がときにそうして人物の心情を代弁してきた。自分の人生を自分でコントロールすることは普遍的なメッセージでありながら、現代の女性たちになお切実さを伴って響くに違いない。
(文・児玉美月)
【作品情報】
『プリシラ』
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ
配給:ギャガ
PRISCILLA/2023/113分/アメリカ・イタリア/ビスタ/5.1chデジタル/字幕翻訳:アンゼたかし
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4/12(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー
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