イタリアの巨匠による耽美映画の金字塔ー演出の魅力
本作は、イタリアの名匠ルキノ・ヴィスコンティによる耽美派作品。
原作はトーマス・マンの同名小説で、『地獄に堕ちた野郎ども』(1969年)『ルートヴィヒ』(1972年)と並ぶ「ドイツ三部作」の2作目。主人公の老作曲家アッシェンバッハ役をダーク・ボガートが、彼を翻弄する美少年タジオ役をビョルン・アンドレセンが演じている。
耽美派とは、美を至上命題とする芸術風潮のことで、ときに伝統的な規範や道徳から逸脱することからデカダンス(退廃主義)と結びつけられることが多い。本作の主人公も、美を追求するあまり自ら死の道を選ぶ。
本作では、この「究極の美」を体現する存在するとして、“世界で一番美しい少年”と称されたアンドレセンが登場。その圧倒的な美貌で、本作のコンセプトに説得力を持たせている。
なお、本作は、ベニス(ヴェネツィア)を舞台とした作品であるにも関わらず、なぜ「ドイツ三部作」の一つに数え上げられていると訝しむ向きもあることと思う。
これについては、アッシェンバッハの人物像が後期ロマン派を代表するドイツの大作曲家グスタフ・マーラーをモデルとしていることが挙げられるだろう。
ボヘミアに生まれ、その後、オーストリア帝国、ドイツ帝国と渡り歩いたマーラーは、ナショナリズム華々しい19世紀に、自身の民族アイデンティティを探し彷徨い続けていた。
そういった意味で、本作の根底に、ドイツという国家が持っていた民族的な矛盾を見てとるのはあながち間違いではないかもしれない。