“世界で一番美しい少年”の数奇な運命ー配役の魅力
本作の配役といえば、「美の体現者」であるビョルン・アンドレセンについて触れなければならない。
1955年、スウェーデンに生まれたアンドレセンだが、父はアンドレセンが生まれる前に亡くなっており、母もその後自殺。両親の愛情を受けることなく育ったという。
そんな彼が芸能界に足を踏み入れるのは、祖母の導きがきっかけ。映画『純愛日記』(1970年)で不良役を演じたのち、祖母に本作のオーディションを受けるよう勧められ、見事タジオ役を射止めるに至る。
しかし、監督のヴィスコンティは、カンヌ国際映画祭で、アンドレセンを罵倒し、その後は自身が所属する富裕層ゲイ・コミュニティに紹介。
アンドレセンはうつ病とアルコール依存症を患い、次第に表舞台から姿を消していく。
さて、以上の顛末は、2021年に公開された『世界で一番美しい少年』に記録されたもの。物静かな口調でインタビューに答える「50年後のタジオ」は、長髪に真っ白な髭を蓄えており、正直かつての美少年の面影はない。
なお、アンドレセンは、その後アリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』(2019年)に出演。崖から飛び降りる老人役を演じ、ワンシーンの出演ながらも大きな反響を呼んだ。
本シーンがかなりグロテスクな描写だったことを考えると、美の克服こそが、彼の畢生のテーマなのかもしれない。