病への恐怖を刻印した志村喬の目ー配役の魅力
本作の配役といえば、何より主演の志村喬を挙げなければならない。『七人の侍』や『羅生門』など、黒澤映画には欠かせない役者として知られる志村だが、本作では病魔に冒された男を迫真の演技で表現している。
志村の演技でとりわけ印象的なのは目だろう。ギョロリと剥かれた目は、渡辺の病気への恐れと怯えそのまま刻印している。ちなみに志村は、本作の撮影前に実際に盲腸に罹患し、体重が激減しており、黒澤は志村に体重を維持するようにお願いしたという。
なお、志村は、本作でベルリン国際映画祭のセルズニック金賞を受賞。NYタイムズでは「世界一の名優」と絶賛されている。
また、小田切とよ役の小田切みきの愛嬌たっぷりの演技もなんとも印象的だ。小田切は、当時俳優座の研究生だったものの、飾らない人柄から本作のヒロインに抜擢。黒澤は、小田切の素の振る舞いを生かしつつ、小田切とよのキャラクターを構築していったという。