観終わった後、美味しいものを食べたくなる
主人公のヤジッドを演じたのは、TikTokで6600万人のフォロワーを持つ映像クリエイターのリアド・ベライシュ。インフルエンサーであると同時に俳優としても活躍する彼は、本作に出演するために料理を一から学び、原作者のイシェムラエンから直々にパティスリーの作法を伝授してもらいながら役作りに励み、映画初主演を果たした。
作品を彩っているのは俳優だけではない、劇中に登場する煌びやかで、いかにも美味しそうなデザートの数々が、観る者の食欲を刺激すること請け合いだ。これらのデザートはすべてイシェムラエン本人が監修している。
本作は、ヌーヴェルヴァーグにインスパイアをされた前衛的作品ではなく、官能的な恋愛要素も社会風刺的な描写もない。まるでアメリカ映画のようなド直球のサクセスストーリーを描いており、そのエンディングは爽快なものだ。
おそらくは、ヤジッド・イシェムラエンの自伝に忠実に製作されたのであろう。華やかな数々のデザートの造形美とは裏腹に、常にピリピリとした厨房の様子、野心を隠そうともしない若きパティシエたちのキャラクターも細かく描かれている。
厨房を舞台とする作品は、映画、テレビドラマ問わず、日本においても数多く製作されている。フランス同様、「食」や「料理」に対する厳しさや妥協を許さない姿勢は、我が国と共通する部分もあり、共感できる部分も多い。その事実は本作にも反映されている。ヤジッドらフランス代表チームが制した2014年のパティスリー世界選手権で、2位の座に就いたのは、日本代表チームだった。
この物語は、あくまでもヤジッドの半生を描いたストーリーなのだが、洋食の世界でも世界に伍するレベルにある日本の料理人たちにも拍手を送りたくなる。そして、観終わった後、ちょっと奮発して美味しいものを食べたくなる衝動にも駆られる作品だ。
(文・寺島武志)
【作品概要】
監督:セバスチャン・テュラール
脚本:セドリック・イド
出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、クリスティーヌ・シティ、パトリック・ダスマサオ、フェニックス・ブロサール、リカ・ミナモト
配給:ハーク
配給協力:FLICKK
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ、日本スイーツ協会
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2023年/フランス/フランス語/110 分/5.1ch/カラー
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