新海誠作品の集大成〜演出の魅力
『君の名は。』(2016)で国内の興行収入歴代4位(当時)を記録し、一躍国民的アニメーション作家の地位に躍り出た新海誠。『すずめの戸締まり』は、そんな新海が2011年に起こった東日本大震災をテーマに描いた作品だ。
主人公の岩戸鈴芽を演じるのは『はらはらなのか。』(2017)で知られる原菜乃華で、宗像草太役はSixTONESの松村北斗。他にも、深津絵里、伊藤沙莉、松本白鸚といった有名俳優が名を連ねている。
周知の通り新海は、震災以来、災害をテーマとした作品を世に送り出してきた。しかし、従来の作品は、『君の名は。』の彗星や『天気の子』(2019)の豪雨といったように、実世界の災害をファンタジックにデフォルメして描く場合が多かった。
一方、『すずめの戸締まり』では、「今描かないと、10代・20代の観客と震災について同じ気持ちを共有できなくなる」という切実な思いから、震災孤児を主人公に据え、より直接的に現実を描写している。
それだけではない。本作では、宮城の被災地から九州、そして東京と、あらゆる景色が現実の風景に基づいている。つまり、新海は、鈴芽と草太に現実の日本列島を「聖地巡礼」させることで現代の日本を語り直しているのだ。
ただ、こういった新海のアプローチが批判を受け続けてきたのも事実だ。例えば、『君の名は。』の公開時は、主人公の瀧が過去を改変して亡くなったはずの三葉たちを救うという展開に「震災をなかったことにする映画」という批判が寄せられたという。確かに「災害をファンタジー化してなかったことにする」という新海のアプローチはあまりに素朴であり、被災者には受け入れられないものであることは想像に難くない。
新海自身もこういった批判に無関心だったわけではない。とりわけ本作では、こういった声を真正面から受け止め、新海なりに落とし前を付けようとした跡がしっかりと垣間見える。そう意味で、本作は、震災以降の新海の心の葛藤を刻印した集大成的な作品であることは間違いないだろう。