新海誠が求める「声の切実さ」〜配役の魅力
これまで、新海は、自身の作品の声優に「切実さ」や「純粋さ」を要求してきた。これは、『君の名は。』の上白石萌音や『天気の子』の森七菜の声を連想してもらえば分かりやすい。
本作も例外ではない。例えば、鈴芽役の原菜乃華については「感情と声の距離が誰よりも近い」ことを、草太役の松村北斗については「表現への追及と、絶え間ない内省と、切実な使命感」が草太の精神性と重なることを選考理由に挙げている。
とりわけ松村は、「椅子に変えられた人間」という極めて難しい役柄にも関わらず、感情のこもった声で見事な演技を披露。1700人のオーディションから主演の座をつかんだ原も、声優初挑戦とは思えない演技を披露している。
また、非声優陣を使った脇役の豪華さも新海作品の特徴だろう。
まず、環役を演じるのは深津絵里。新海は、選考理由について、「本音をぶつけ、うそのない叫びを聞かせてもらわないと成立しないキャラクター」と述べており、脇役にも切実さを求めていることが分かる。
また、神戸のスナックのママ二ノ宮ルミを演じるのは、伊藤沙莉。伊藤としては珍しく関西弁の役だが、独特のあたたかみのあるハスキーボイスで鈴芽の心情に寄り添っている。
芹澤役の神木隆之介は『君の名は。』で主人公の瀧役を演じており、すでに新海とは気心知れた仲。演じる上で新海からは瀧とトーンで差別化を図るよう依頼を受けており、試行錯誤しながら低い声で演じることにしたという。
なお、本作では他にも、環の同僚の岡部稔役に染谷将太、鈴芽の母親の岩戸椿芽役に花澤香菜、草太の祖父の宗像羊朗役に松本白鸚と豪華キャストが名を連ねており、さながら演技合戦の様相を呈している。