原作をアダプテーションする手つきに見られる知性
手始めに、英国産「フォーク・ホラー」の伝統に連なるアイルランド人の男性作家A.Mシャインによるデビュー長編である同名原作との関係を確認しておこう。イシャナは複数のインタビューで原作を70ページ読んだ段階で映画化を決意したと述べている。当該ページは原作全28章中の第6章末尾にあたる。
大まかに言えば、そこまでの物語はミナが鳥かごに入ったあと、マデリンの口からルールの存在と建物の性質がある程度ミナと読者に周知されるまでを描いており、やはりイシャナが密室やルールの存在といったガジェットに惹かれたことは間違いないだろう。
これら小説前半で示される設定をはじめ、映画のストーリー展開は大枠では原作に忠実なものとなっている。またロケも原作を踏襲し、父の作品のほとんどが撮影されてきたペンシルヴァニア州ではなく、アイルランドの森林地帯で行われた。
だが同時に、特に結末を含む終盤を中心に、映画には多くのオリジナル要素が盛り込まれてもいる。とりわけ、エンディングを改変することで原作に独自の要素を付け足そうとする傾向は、イシャナがB班の監督として参加した父の近作『オールド』(2021)や、『ノック・アット・ザ・キャビン』(2023)にも共通してみられる。
とはいえ、イシャナがアダプテーションの過程で原作に加えた創意は、こう言ってよければ総じて父よりも知的であり、クライマックスのモノローグなど、一部それゆえに作品の娯楽性を損なっているように見える部分もあるものの、総じてうまく機能している。