「関心領域」という概念のおぞましさを顕在化させるために
「この物語はある意味でわれわれを描いた物語でもあることが分かります。この物語の中で自分自身の姿を見出すか、自分自身を見ようとするかということ。われわれが最も恐れているのは、自分が彼らになってしまうかもしれないということだと思います。彼らも人間だったのですから」
上のようにグレイザーはオフィシャルインタビューで述べている。幾重にも張りめぐらされたコンパートメント化の方法論は、あきらかに第二次世界大戦の過去と現在を塀の壁1枚を隔てて張り合わせようとする試みであろう。
ホロコーストの犠牲者たちの子孫である人工国家がガザ地区やヨルダン川西岸地区で現在おこなっていることについて、ジョナサン・グレイザーがアカデミー賞の受賞スピーチで、「ユダヤ人としての彼ら自身(グレイザー家は曽祖父の代にイギリスに移住した東欧系ユダヤ人の家系)の存在やホロコーストが、ガザでの占領行為に乗っ取られていることに異議を唱えるために、ここに立っている」と宣言した。
関心領域という概念は、ガザにも東ウクライナにも、さらには『オッペンハイマー』という映画の内部にさえも見出しうる。その広がりのおそろしさ、おぞましさを最大限に顕在化させるために、ジョナサン・グレイザーは画面に映る領域を過激に狭めたのである。
(文:荻野洋一)
新宿ピカデリー、TOHOシネマズシャンテほか全国公開中
【作品情報】
監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス
撮影監督:ウカシュ・ジャル
音楽:ミカ・レヴィ
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:The Zone of Interest|2023年|アメリカ・イギリス・ポーランド映画
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