映画史に燦然と輝くラブロマンスの超大作―演出の魅力
古今東西の名画を観ていると、時に出来上がったのが「奇跡」としか言いようがない作品があることに気付く。この『タイタニック』もそんな作品の一つだろう。
本作は、処女航海中に氷山に衝突し当時世界最悪の犠牲者を出したタイタニック号沈没事故をモデルとしたラブロマンス作品。監督は『ターミネーター』(1984)や『アバター』(2010)で知られるジェームズ・キャメロンで、主人公のジャック・ドーソンをレオナルド・ディカプリオが、ヒロインのローズ・デウィット・ブケイターをケイト・ウィンスレットが演じる。
あまりにも有名すぎてもはや説明不要の感もある本作。特に、ジャックとローズが夕陽をバックに船首で手を広げる映画史上屈指の名シーンは、もはや真似をするのが恥ずかしいくらいに人口に膾炙している。
ただ、本作は、完成に至るまでに数々の苦難があったはあまり知られていない。撮影現場では、水に巨大プールで何時間も水に浸かっていたキャストたちが次々と風邪やインフルエンザ、低体温症に倒れたり、スタントマンが次々と骨折したりとトラブルが続発しており、挙句の果てには過酷な撮影に業を煮やしたスタッフが食事に毒物を混ぜ、50人以上のスタッフが搬送されるという事件も起こっていた。
また、それに併せて撮影スケジュールが138日から160日に延長され、公開も夏から冬にずれ込むことに。予算もかさみ、当初予定していた8000万ドルを大幅にフローし、最終的に2億ドル(上映時間1分あたり100万ドル)の大台を突破した。
この費用は、当時の映画界で最も高額な費用であり、配給を務めた20世紀フォックスが全米での配給権の代わりにパラマウント映画から6500万ドルを調達したり、キャメロン自身も自宅を売ったりして制作資金を捻出したという(予算削減のためシーンの削減を要求されたキャメロンは、「俺の映画をカットしたいなら俺をクビにしろ。ただクビにするなら俺を殺せ!」と啖呵を切っている)。
苦難はまだ続く。公開直前には、週刊誌によって膨れ上がった予算や公開日の大幅な遅れなどをオーバーにかき立てられ、「沈みゆく船」と全米で大バッシングを受けていた。しかし、本作が東京国際映画祭とイギリス王室でプレミア公開され、関係者から大絶賛の声が上がると、ここから状況が一変。
興行収入で初登場1位を記録したほか、アカデミー賞では作品賞、監督賞、撮影賞など全11部門で受賞、さらに14部門にノミネートされて『イヴの総て』(1950年)と並ぶ史上最多ノミネート作品となり、作品賞、監督賞、撮影賞など全11部門で受賞し、『ベン・ハー』(1959)と並ぶ史上最多受賞作品となった。
なお、本作は、全世界で21.9億ドルの興行収入を記録し、『ジュラシック・パーク』(1993)を抜いて当時の映画界の歴代最高収入を達成。2010年に同じくジェームズ・キャメロンが監督した『アバター』に抜かれるまで、およそ20年近く記録を維持し続けた。また、日本国内の興行収入も262億円を記録し、『もののけ姫』(1997)を抜いて当時の歴代最高を達成。『千と千尋の神隠し』(2001)に抜かれるまで記録を保持し続けている。
不朽の名作として名高い本作だが、曖昧な史実をあたかも事実であるかのように描いている部分も散見される。例として、俳優のユアン・ステュアートが演じた、実在した一等航海士、ウィリアム・マクマスター・マードックに関する描写を挙げることができるだろう。
劇中、マードックは、船が沈没の危機に陥った際、裕福な乗客を優先的に救命ボートに乗せることを約束し、賄賂を受け取るが、直前になって心変わりを起こし、乗客を射殺して自らの命も絶つ。しかし生還した者の証言には「彼は最後まで職務を遂行して亡くなった」といったものもあり、映画公開後、マードックの遺族が抗議する事態に発展。
抗議を受け、製作の20世紀フォックス社はマードックの遺族に謝罪するとともに、故人の出身高校に5000ポンドを寄付。また、ジェームズ・キャメロン監督は本作のメイキングで「配慮が足りなかった」と反省の弁を述べている。