「半地下はまだマシ」宣伝文句に偽りなし…衝撃の結末とは? 映画『ビニールハウス』徹底考察&評価。忖度なしガチレビュー
イ・ソルヒ監督の長編デビュー作『ビニールハウス』が公開中だ。第27回釜山国際映画祭で新人監督としては異例の3冠を達成した本作。今回は、ビニールハウスに暮らす貧困層の女性・ムンジョンが事件によって衝撃のエンディングを迎える本作のレビューをお届けする。(文・寺島武志)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
第27回釜山国際映画祭で3冠
キャッチコピーに偽りなしの衝撃作
本作を語る前に触れておきたいのは、そのティザービジュアル。その謳い文句は「半地下はまだマシ」という挑発的な言葉だ。
監督・脚本・編集を担当したのは、本作が長編監督デビューとなる29歳のイ・ソルヒ。韓国映画アカデミーで学び、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で、韓国史上初、パルムドールとオスカーを手にしたポン・ジュノの後輩にあたる。
ソルヒ自身、認知症の祖母と、その世話をする母の日常から着想を得てオリジナルの脚本を執筆したというだけに、貧困や孤独、高齢者をめぐる介護や認知症といった問題を、リアリティーたっぷりに描き、韓国社会の負の部分に鋭く切り込んでいる。
新人監督としては異例の第27回釜山国際映画祭で3冠を獲得し、第59回大鐘賞映画祭・第44回青龍映画賞の新人監督賞にノミネートされるなど、鮮烈な長編映画監督デビューを飾った。
物語は広大な農場にポツンと建つ真っ黒なビニールハウスのアップから始まる。農場といっても農産物が育てられている様子はない。どうやら休耕地のようだ。だとすれば、このビニールハウスはかつて、栽培された作物の集積場だったのだろうか。
そこに潜り込むようにして暮らしているムンジョン(キム・ソヒョン)。 ビニールハウスに暮らすムンジョンは、家を借りるお金もなく、少年院にいる息子と再び新居で暮らすことを夢見ながら、盲目の老人テガン(ヤン・ジェソン)と、その妻で重度の認知症を患うファオク(シン・ヨンスク)の訪問介護士兼家政婦として働いている。
ファオクは認知症のせいか、ムンジョンを異常なまでに敵視し、入浴介護の際にも全く言うことを聞かず、ムンジョンの顔に唾を吐き掛ける始末。かたやテガンは、目が見えないにもかかわらず、その状況を知っているかのようで、ムンジョンを気に掛ける言葉をかける優しい主人だ。
しかしある日、ファオクが風呂で暴れ出し、ムンジョンと揉み合った末、床に後頭部を強打し死んでしまう。