第1章で忘れがたい印象を残す垂直方向へのカメラの動き
映画は、休業中の映画監督ビョンス(クォン・ヘヒョ)が、娘のジョンス(パク・ミソ)を伴って古い友人でインテリアデザイナーのヘオク(イ・ヘヨン)が所有する地上4階、地下1階のアパートを車で訪ねるところからはじまる。
アパート1階の入り口を捉えた最初のショットから同じ場所に戻る最後のショットまで、全編を通してカメラは建物の内部とその入口以外に据えられることはない。そのため、アパートの入口から見える坂道を下った先の空間や、登場人物たちが画面から出て向かっていく場所は、いずれも作中には登場せず一貫して画面外として処理される。そして、もはやキム・ミニが控える画面外こそが関心の中心になってしまったかのように、劇中の決定的な出来事はこれまで以上にことごとく画面外で起きることとなる。
物語は、大まかに分けるとアパートの各階と対応する4つのエピソードから成る。まず、作品全体の構成を簡潔に示すものとして、ビョンスと娘の一度目の訪問を描いた第1章の内容を細かく見てみよう。
冒頭の場面の後、建物に入った3人は1階のレストランでテーブルを囲んでワインを飲む。ここでのちに画面内に現れもする店員のジュール(シン・ソクホ)は、まず画面外の声として映画に登場する。
会話が一段落したところで、ヘオクはアパートの各フロアを2人に案内する。最上階となる4階に辿り着くショットでは、まず下の階に位置したカメラがヘオクらの足元を捉えてから、画面外で繰り返される鍵の暗証番号を打ち間違える彼女の動作に呼応するように、ゆっくりと垂直にティルトし3人の全身を映し出す。
この場面の不思議なカメラの動きは、かつての得意技で、もはや本作では使われていないズームがはじめて現れたときのように、奇妙に忘れがたい印象を残す。