舞台となるアパートは「家の中」なのか「外」なのか
この外と内の断絶をもっとも強く感じさせるのが、車でビョンスが去った後、再びワインを飲むジョンスとへオクが交わす会話だ。ここではやはり画面から消えた父ビョンスの人物像が話題となるが、そこで娘は「家の中の父」と「外の父」の違いについて語り出す。
娘は、計算高く外面の良い父が、家の中でだけ見せる本当の姿について話し、「父がどんな人かみんな知りません」と嘆く。それに対してへオクは、外で見る姿もまた監督、つまりビョンス本人であり、家の中の彼も、外の彼もどちらもビョンスなのではないか、もしかしたら外での姿こそが本物かもしれないと切り返す。へオクが娘ジョンスに父の家の中の姿だけが本物だと信じているのね、と再度問いかけ、娘が頷いたところで、会話は気まずい沈黙へと至る。
外での姿こそが本物かもしれない。この指摘は、究極的には裏方をつとめるキム・ミニをも含む、画面外にいて、役柄を演じていない「素の」人間としての俳優たちの姿にまず想像を向けさせる。
そして、加えてもう1つ重要なことに、この場に不在のビョンスにとって、そもそもこの映画の舞台となるアパートは「家の中」なのか「外」なのかという問いを導く。