「悪夢の暗殺、その結果は…」映画で学ぶLGBTQ、おすすめ映画(5)。弱者のため命を賭したゲイの政治家、その半生とは?
「LGBTQ」とは同性愛者や、男性も女性も愛することができる両性愛者など、セクシュアルマイノリティの方々を表す言葉だ。近年は多様性を認め合える社会になりつつあるが、「LGBTQ」という言葉や概念が浸透する数年前まで、彼ら彼女らは苦しい思いをすることが多くあった。そこで今回は「LGBTQ」に焦点を当てた映画を5本紹介する。今回は第5回。(文・寺島武志)
●名匠ガス・ヴァン・サントが暗殺されたゲイの政治家の半生を描く
『ミルク』(2008)
原題:Milk
製作国:アメリカ
監督:ガス・バン・サント
脚本:ダスティン・ランス・ブラック
キャスト:ショーン・ペン、ジョシュ・ブローリン、エミール・ハーシュ、ジェームズ・フランコ
【作品内容】
1970年代のサンフランシスコ。アメリカ史上初めて、ゲイであることを公表し公職に就いた政治家ハーヴェイ・ミルク。差別に立ち向かい、社会的弱者である人々のために戦った8年間を描いた伝記映画。
【注目ポイント】
1930年生まれのゲイの政治家、権利活動家ハーヴェイ・バーナード・ミルクの生涯を描いた作品。主人公・ミルク(ショーン・ペン)は、1977年、カリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員に当選し、同国で初めて選挙で選ばれたゲイを公表していた公職者となる。
しかし翌年、同僚議員のダン・ホワイトにより、ジョージ・マスコーニ市長とともに同市庁舎内で射殺された。この事件の裁判で、ホワイトはわずか7年の禁固刑を宣告され、この評決に怒った同性愛者らが、サンフランシスコで広範囲にわたる暴動を起こしたことでも知られている。
1970年代、まだ同性愛が市民権を得ていなかった時代。ミルクは社会の不平等を改革すべく行動を起こし、自らゲイであることを公表すると同時に同性愛者の公民権獲得や地位向上のために立ち上がる。
同性愛者への支援に留まらず、黒人やアジア人、高齢者、児童、下級労働者などの様々な社会的弱者の救済のために活動し、次第に活動が実を結んでいく。
支持者は着実に数を増やし、いつしか社会からも理解が生まれ始める。しかし、それは同時に強い反発をも生んでいた。活動を続ける中でミルクを危険人物とみなす動きも生まれ、対立は激化していく。ミルクはいつしか身の危険を感じるようになり、ある日、テープレコーダーに遺言を記録し始める。
まだLGBTに対する理解も薄かった当時のアメリカで、すべての弱き人々のために声を上げるミルクを、マイノリティのために戦ったミルクの濃密な8年間の物語だ。
同性愛者というだけで、理由もなく警察に殴られたり、逮捕されていた当時のアメリカにおいて、様々な社会的弱者に寄り添った公民権運動の歴史の一部として、同性愛者の権利が獲得されるまでの過程がリアルに描かれている。
「死」という悲劇的なラストではあるが、文字通り、命を賭して同性愛者の権利獲得に人生を捧げた彼の功績が種となり、現在、世界中で花開いていることは、誰しもが否定できない事実であろう。
(文・寺島武志)
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