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鬼畜だらけ…実在する猟奇殺人鬼がモデルの映画(1)。狂気の大惨事…善良な男が豹変する理由は?

text by 寺島武志
元海兵隊員のチャールズホイットマンGetty Images

事実は小説より奇なり。今回は実在する殺人鬼をモデルにした洋画をピックアップ。理解に苦しむ残忍な連続殺人や、思わず同情してしまうような壮絶な生い立ちを持つ犯罪者が続々と登場。映画としての魅力はもちろん、モデルとなった事件についても深掘りして紹介する。今回は第1回。(文・寺島武志)

●テキサスタワーから無差別に銃乱射…。善良な市民が引き起こした大惨事

『殺人者はライフルを持っている!』(1968)


出典:Amazon

原題:Targets
製作国:アメリカ
監督・脚本:ピーター・ボグダノビッチ
キャスト:ポリス・カーロフ、ナンシー・スー、ティム・オケリー、アーサー・ピーターソン

【作品内容】

年老いた怪奇映画スターであるバイロン・オーロック(ボリス・カーロフ)は、自身が出演した映画のプレミア試写の場で、突然、引退を宣言する。映画監督のサミー(ピーター・ボグダノヴィッチ)はオーロックを説得するも失敗に終わる。その向かいの銃砲店では、スコープでオーロックを見つめる男がいた。

彼の名はボビー・トンプソン(ティム・オケリー)。一見したところ何の変哲もない善良な市民である。しかし、彼は銃と弾薬を購入後、自分の車に向かいトランクを開けると、そこには大量の銃が収められていて…。

【注目ポイント】

本作が製作された1968年は、ベトナム戦争が泥沼化して反戦運動が広がり、公開2年前の1966年にはテキサスタワー乱射事件が社会に衝撃を与えた。本作もそんな時代背景に大きく影響されている。

テキサスタワー乱射事件は、元海兵隊員が突然、妻と母を殺害。その足でテキサス大学オースティン校本館に向かい、受付嬢や見学者を殺害した後、狙撃用のライフルや食料などを持ち込み籠城。眼下の人々を次々に銃撃した、アメリカ史上に残る殺人事件だ。

犯人が警官に射殺されるまで、15人の犠牲者と31人の負傷者を出す大惨事となった。この事件は、一見模範的な市民が突然、無関係な人々を無差別に殺害するという内容で世間に計り知れない衝撃を与えた。はっきりした殺害動機は不明のままであり、謎の多い事件としても知られている。

この事件をモデルにした、映画『殺人者はライフルを持っている!』の登場人物・ボビーも妻と母を殺害し、遺書のようなものも遺し、高所に陣取って眼下の標的を無差別に銃撃するという、事件をなぞるような行動をしている。劇中には、銃砲店でボビーが弾薬の使い道を尋ねられ「豚を撃つ」と答える場面があるが、ホイットマンも事件前に同様の場面で「イノシシを撃つ」と答えたとされる。

一般人が自分の妻と母親を理由もなく撃ち殺すシーンから始まる銃撃シーンは何とも不気味であり、名匠ピーター・ボグダノヴィッチ監督の卓越した演出力が光る。また、年老いたスター俳優が現実の凶悪犯を懲らしめるラストシーンは秀逸だ。

数年に一度の頻度で、必ず起こるといっても過言ではないアメリカにおける銃乱射事件。その度に、銃規制が社会的課題として浮かんでは消えるという事態が繰り返されているが、周知のように、アメリカにおいて銃規制は未だ実現されていない。

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