「ふざけるな」悪夢の映画化…原作者激怒と噂の日本映画(2)。改変地獄に芥川賞作家が大暴れ…罵詈雑言の嵐
昨今のヒット映画のほとんどは原作モノであると言っても過言ではない。原作の知名度があることで企画が通りやすく、集客が見込めることなど、大人の事情が絡んでいるからだ。しかし原作を使用することは、ファンや原作者の意向も気にしなくてはならない。今回は様々な事情で原作者の怒りを買ってしまったと噂のある映画を紹介する。
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R指定に不満…。芥川賞作家による映画化批判は愛のムチ!?
『苦役列車』(2012)
原作:西村賢太
製作国:日本
監督:山下敦弘
脚本:いまおかしんじ
キャスト:森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ
【作品内容】
中卒の北町貫多(森山未來)は、性犯罪を犯した父を持つ引け目から友人も恋人も作らず、日雇いの労働をしながらその日暮らしをしていた。あるきっかけから日下部正二(高良健吾)と友達になり、古本屋で働く桜井康子(前田敦子)と引き合わせてもらうが、不器用な北町は突然康子の手を舐めたり、日下部に借金したりと問題を起こしてしまう…。
【注目ポイント】
同作は、2011年の芥川賞を授賞した西村賢太の私小説を映画化した作品だ。キャッチフレーズは「友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべきろくでナシ」。
昭和末期のバブルに沸く日本社会をよそに、まさにこの世の最底辺を這いつくばりながら生きる若者・北町貫多(森山未來)と、その友人・日下部正二(高良健吾)、さらに北町が思いを寄せる本屋のアルバイト店員・桜井康子(前田敦子)との関係を軸に描いている。
作家としての西村の持ち味は、何といっても、その生い立ちを根底とした私小説だ。主人公の北町は、父の犯した性犯罪により一家離散し、自身も中卒で日雇い仕事に従事するしかない少年時代を送るが、それは西村の生い立ちと同じであり、スクリーンに映る北町は、西村の生き写しでもあるのだ。
しかしながら、西村は同作について、さまざまな苦言を呈している。
まず、最初の不満はR-15に指定されたこと。そして、森山未來が演じる北町が関西出身であることだ。西村は「セリフ回しが僕の考える北町像とは違う」と切り捨てた。原作者本人がモデルとなっているだけに、東京出身であることにプライドを持っており、江戸っ子言葉のニュアンスを大事にしてほしかったと告白している。
西村の批判は続く。台本では「小説を書きたいんですよね」となっていたセリフが、作中では「なんか書きたいんですよね」に変更されていたこと。康子が北町に貸す本をマニアックなものにしてほしかったこと。さらに、風俗のシーンに対しても、その性的サービスの内容の些細な相違にまで言及している。
逆に考えれば、実に細かなところまでチェックしていることがわかる。一方で、原作にはない康子を演じる前田敦子について「人気アイドルが演じることでの集客効果ということを除けば、オリジナルキャストはいらなかったと思う」と“客寄せパンダ”呼ばわりする始末だ。
原作ファンの間でも賛否が分かれた作品でもあったが、あろうことか原作者である西村が先陣を切るように不満をブチまけていたのだ。西村と言えば芥川賞受賞式で「風俗に行こうと思っていた」と語ったように、TPOを考えない自由過ぎる発言でも知られている。本音なのか戯言なのか分からないギリギリの発言をすることで話題を振りまいていた人物だ。
また、無頼派を地で行くような生活ぶりを貫き、そのためか、54歳の若さで急性心筋梗塞で亡くなっている。同作に対しての批判の数々について、あえて過激な言葉を用いてネガティブキャンペーンを張ることで注目を集めようとしたとの声もあった。この点について西村は、あっさりと認めている。
しかし一方で、作中の細かいディテールにまで言及していることからも分かるように、炎上というマーケティング手法を狙ったというよりも、自らの作品ににこだわりを持つ作家としての一面が露わになったといえるのではないだろうか。
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