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邦画界最強の“役者バカ”は? 壮絶な役作りに挑んだ日本人俳優(4)三畳一間に住み風呂も入らず…悪臭を放ち熱演

自分以外の人間を演じる“俳優”。彼らは時に、我々には想像を絶する役作りをしている。人を感動させるためだけに作られる映画に、体の一部や生活を差し出してまで演じるということは、一体どういうことなのだろうか。そしてその映画は我々に何をもたらしてくれるのか。今回は、俳優が壮絶な役作りをした映画を5本セレクトして紹介する。(文・野原まりこ)

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生活を捨てて人生に絶望した青年になりきる

森山未來『苦役列車』(2012)


出典:Amazon

原作:西村賢太
監督:山下敦弘
脚本:いまおかしんじ
出演:森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ

【作品内容】

中卒の北町貫多(森山未來)は、酒と風俗におぼれる日雇い労働の青年。父親が性犯罪者であることに引け目を持ち、友人や恋人はいなかった。将来に希望はなく、ただただ無駄に日々を過ごしていた。そんな中、ある出会いによって貫多は変化していく…。

第144回芥川賞作受賞の西村賢太による原作を『天然コケッコー』の山下敦弘監督が映画化。

【注目ポイント】

森山未來
森山未來Getty Images

本作は、2022年に54歳で亡くなった芥川賞作家・西村賢太の自伝的小説が基になっている。西村は父親が性犯罪者であるということに引け目を感じ、将来に希望を持てず、体たらくな生活を送っていた過去がある。肉体労働で日銭を稼ぎ、風呂なしトイレ共同のアパートに住んでは家賃を滞納し、強制退去を繰り返していたという。

そんな人物を演じる上で森山未來が行なった役作りは、主人公と同じ体験をするために、撮影期間中、風呂なし・トイレ共同の三畳一間の部屋を借り、酒とタバコ漬けの日々を過ごすことだった。

数日間風呂に入らず身体から悪臭を放ち、酒を飲んで顔をむくませた状態で撮影に臨んだという森山未來。周りのスタッフは彼の役づくりを理解しており、普段の様子とは異なる森山の変貌ぶりを喜んで撮影していたという。主演の森山のみならず、スタッフも一丸となって、本物の苦しみを観客に届けようとしていたことがわかるエピソードだ。

そして主人公・北町貫多と一体化した森山は、貫多が生きてきた壮絶な過去を卑屈な顔で繊細に表現している。注意されれば悪態をつき、仕事でミスをすれば「どうせ自分は中卒だから」と卑屈になる。

しかし、主人公のキャラクターに反して、映画は決してシリアスなトーンに落ち込むことはない。地べたに這いつくばって、意地汚く生きる貫多の姿に笑えたり共感したりできるのは、役と真剣に向き合って、キャラクターに血を通わせてみせた、森山未來の卓越した演技力と血のにじむような役作りの努力あってこそ。

観る者は、本作を通して、本物の苦しみと暗闇の底から遥か遠くに見える星の光ほどの小さな希望を持つ人間の姿に魅せられることだろう。

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