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ツウが厳選…心にズシリとくる邦画の傑作は? 日本の闇映画(2)最悪な結末…実話を基にした近年屈指の衝撃作

text by 阿部早苗

テレビをつければ、差別、貧困、虐待にまつわる話題は事欠かない。しかし、ニュースが報じるのは事象のごく一部のみ。社会問題の根っこにフォーカスし、可視化すること。それは映画が果たすべき重要な役割の1つだろう。今回は、日本社会が抱える暗部に鋭くメスを入れた近年の傑作を、5本セレクトして紹介する。(文・阿部早苗)

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【著者プロフィール:阿部早苗】

神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAOトレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。

機能不全家庭で育った少女の希望と絶望を描く

『あんのこと』(2023)

佐藤二朗
佐藤二朗Getty Images

上映時間:113分
監督:入江悠
脚本:入江悠
キャスト:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり

【作品内容】

 母親と足の不自由な祖母と暮らす杏(河合優実)は、母親から売春の強要と虐待を受けて育った。覚醒剤に溺れていた彼女は、覚醒剤使用の容疑で事情聴取を担当した刑事との出会いをきっかけに更生の道を歩みだす。

【注目ポイント】

 河合優実が主人公・杏を演じ、彼女を薬物中毒から更生させようと全力疾走する人情深い刑事を佐藤二朗、ふたりに深く関わるジャーナリストを稲垣吾郎が演じている。ある少女の凄惨な半生をつづった新聞記事をモチーフに『太陽』(2016)、『AI崩壊』(2020)などを手がけた入江悠監督がメガホンを取った。

 21歳の杏の家庭は、足の不自由な祖母とホステスの母親がいる。母親からの暴力は日常化し、小4で不登校、12歳の頃から売春を強要されるなど、過酷な環境で育った杏は、16歳の時、客から覚醒剤を教えられ、常習化していった。母親は杏にお金をせびり「ママ」と呼ぶ。機能不全家族の元で育った杏の心はズタボロだった。

 そんな彼女は覚醒剤使用の取り調べを担当した刑事・多々羅との出会いによって更生の道を少しずつ歩み始める。育った環境によって人を信じることが出来なくなっていた杏は、多々羅と、彼を通じて知り合ったジャーナリスト・桐野(稲垣吾郎)のサポートによって変わっていく。

 その後、母親から離れDVシェルターで生活を始め、多々羅の誘いで薬物更生を目的とした自助グループにも参加した彼女は笑顔を見せるようになっていた。しかし、多々羅には参加している女性に肉体関係を迫るなど、裏の顔があった。

 桐野によって悪事が白日の下にさらされた多々羅は、逮捕される。同じタイミングで、新型コロナウイルスによる政府の緊急事態宣言が発令され、仕事や学校に行けなくなった杏は、頼れる人を失い再び孤立してしまう。

 そんな中、突然隣人に乳児を押し付けられた杏は、途方にくれながらも手探りで育児に励む。毒親のもとで育った杏は、見ず知らずの他人の子供を育てる経験を通して、利害関係を超越した無償の愛の存在に少しづつ触れていく。この日常が続いてほしいと観る者が思い始めた矢先、残酷にも杏は、自身の母親に見つかり、最悪な結末を迎える。

 杏のように家庭環境によって過酷な状況に追いやられている若者は少なくない。フィクションだが、杏を身近に感じるドキュメンタリー映画のようでもあり、社会の歪みを突き付けてくる作品だ。

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