死への恐怖を超えた母親の愛
『仄暗い水の底から』(2002)
監督:中田秀夫
脚本:中村義洋、鈴木謙一
原作:鈴木光司『浮遊する水』
出演:黒木瞳、小日向文世、菅野莉央、水川あさみ
【作品内容】
幼い娘を連れて新しいマンションに住み始めた淑美(黒木瞳)。しかし不快な湿気や雨漏りに悩まされる。その上、何度捨てても手元に赤いバッグが戻ってくることをはじめとした怪奇現象に悩まされるようになる。
【注目ポイント】
一般的にホラー映画では過去のトラウマや家族といった根源的なモチーフがテーマになることが多い。こういったモチーフの方が実存を揺さぶられるという不安を喚起しやすいからだろう。その点この『仄暗い水の底から』は、モチーフ選びの時点で満点と言えるかもしれない。
本作で取り上げられるモチーフ。それは、ずばり「母性」だ。本作の主人公、松原淑美(黒木瞳)は、離婚調停中の主婦。彼女は、生活を立て直そうと心機一転、娘の郁子(菅野莉央)とともに古いマンションで暮らし始める。
しかし、引越し早々、淑美は、天井の水漏れや上階からの足音などの奇妙な現象に見舞われるようになる。そして、とあるきっかけから過去にマンションで起こった悲劇の存在を知った彼女は、自ら少女の有名と対峙。最終的には、自らの命を投げ打って彼女を守ろうとする。
なお、本作には、母性に加えてもう一つ根源的なモチーフが登場する。私たちの生活にとって欠かせない要素である水だが、作中では、現実に浸透してくる過去の悲劇や、淑美たちの不安感を表すモチーフとして、効果的に使用されているのだ。
ちなみに、本作のラストシーンでは、成長した郁子が再び廃墟となったマンションを訪れ、淑美の霊と出会う。この描写は、母である淑美の愛が、肉体が滅んだ後も続いていることを示唆している。