秀逸すぎる“思い出回収”
「精神と時の部屋」の存在
「人造人間編」の終盤、ラスボス・セルを倒すため、悟空たちが修行の場として利用するのが、神殿内にある「精神と時の部屋」だ。ここは、現実の1日で1年分の時が流れるという、まさに究極の修行空間。生活に必要な最低限の施設と簡素な食事、水があるだけで、目の前に広がるのは限りのない真っ白な世界という、精神的にも過酷な環境である。
この「精神と時の部屋」に悟空と悟飯が入るエピソードは、設定上は後付けである。しかし、巧みな補完によって“伏線回収”のような演出がなされているのが見事だ。実は少年期の悟空もかつてこの部屋に入っていたが、1日すら耐えきれずに出てしまった――そんなエピソードが、神様と融合し記憶を共有するピッコロの口から語られる。
「そんな部屋、今まであったっけ?」と思った読者もいたはずだが、悟空とピッコロの静かなやりとりは、むしろ“思い出回収”として機能している。描かれることのなかった神様と悟空の過去が、ピッコロという存在を通してさりげなく浮かび上がる。これは伏線というよりも、感情を補強する“記憶の継承”と言えるだろう。
この部屋は“同時に入れるのは2人まで”というルールがあり、作中ではベジータ&トランクス、悟空&悟飯がそれぞれ順番に修行を行った。特に悟空と悟飯は、この空間で「自然な状態でスーパーサイヤ人でいる」方法を会得。部屋を出たとき、無駄な力みのないスーパーサイヤ人状態で現れた2人の姿には、まさに鳥肌が立つような緊張感と美しさがあった。
一方で、この設定は後の「魔人ブウ編」で揺らぐことになる。ブウに「その部屋に入れろ」と迫られ、ピッコロ、ブウ、幼少期の悟天、そしてトランクスの4人が同時に部屋へ突入。明らかに“2人まで”というルールを超えてしまっているが、それでも違和感をギャグで押し切ってしまうあたりが、もはや『ドラゴンボール』終盤の“なんでもアリ感”を象徴していると言える。
このように、「精神と時の部屋」はシリアスな成長ドラマを描く場でありながら、シリーズ後半ではコミカルな要素すら受け入れる柔軟な舞台として機能している。その自由さに突っ込みたくなる場面もあるが、それも含めて『ドラゴンボール』らしい魅力の一部なのだ。
(文・ZAKKY)
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