芸術性はピカイチだが…。
スタジオジブリが製作に参加するも爆死
『レッドタートル ある島の物語』(2016)
原題:La tortue rouge
製作国:フランス・日本・ベルギー合作
監督・原作:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ビット、パスカル・フェラン
プロデューサー:鈴木敏夫、バンサン・マラバル
アーティステックプロデューサー:高畑勲
【作品内容】
無人島を舞台にした物語で、嵐の海に放り出されてしまった男は、やがて島にたどり着く。そこには、ウミガメやカニ、鳥たちが暮らしているだけで、人の姿はない。脱出を試みるが、どうしても島に引き戻されてしまう。
やがて男は赤い亀に出会い、その亀が自分の脱出を妨げていることを知る。亀をひっくり返したところ、死んだ亀のかわりに女が現れる。その女との2人暮らしをはじめ、子どもを持った男は、その子が成長したのを見届けた後、愛する妻に見守られながら息を引き取る。
フランスのアニメ制作会社、プリマ・リネア・プロダクションズがアニメーション制作を、日本のスタジオジブリとベルギーのベルビジョンと手を組み、オランダ出身のアニメーター、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットが2000年に発表した短編小説「岸辺のふたり」を8年がかりで完成させた初長編作品だ。
同作は、アカデミー長編アニメーション部門でノミネートを果たしたことからわかるとおり、国際的には高い評価を得ている。また、スタジオジブリが、初となる海外作家の映画製作に参加し、高畑勲がアーティステックプロデューサーとして作品に関わっている。
【注目ポイント】
1人の男の人生を追ったドキュメンタリー作品という意味合いが強く感じられる作品だ。妻となる女の正体は赤い亀なのだが、男を島に引き留めた明確な理由は分からないままなのが、この映画の最大の謎だ。
同作は無声(サイレント)映画である。登場する人間は、遭難する男以外にも増えていくが、セリフは一切ない。観客は、行動と表情から登場人物の感情を推測し、頭の中で物語を描いていくことになる。
本作のアート性や、表現力に対する批評家からの評価は高く、上述したように2017年にはアカデミー賞長編アニメ部門ノミネートの快挙を果たしている。しかしながら、興行収入は約9400万円と、とてもヒットしたとはいえない数字だ。こればかりは日本人にサイレントという表現形式が受け入れられなかった結果としか言いようがない。
売れているから賞をもらったのではなく、表現が優れているから評価されるというのは映画製作者としての誇るべきことだ。ちなみに、この時、アカデミー賞長編アニメーション部門を受賞したのは、日本でもスマッシュヒットを記録したディズニー映画『ズートピア』だった。
ディズニーに勝るヒットとまではいかなかったものの、スタジオジブリ初となる海外との共同製作という画期的な試みは、ある程度の手ごたえを残したはず。これを足ががりに、次なる挑戦を期待したいところだ。