名前自体が放送禁止!?
コンプライアンスの壁を乗り越える南方妖怪のボス
劇場版『ゲゲゲの鬼太郎』(第3期)
監督:白土武
脚本:星山博之
最後を飾るのは、妖怪チ◯ポだ(検索の関係上、やむを得ない伏せ字をお許しいただきたい)。
南方からやってきたこの妖怪は、名前の通り三つの男性器を持つ妖怪で、そこから火炎やジェットなど、さまざまなものを噴出し、攻撃をしたり空を飛んだりする。当然原作者である水木しげるのオリジナルの妖怪で、某テレビ番組で紹介された際には、「力作のつもりだったけど誰も騒いでくれなかった」と述懐している。
原作の初出は『鬼太郎の世界お化け旅行』で、報酬につられてねずみ男に操られる金にがめつい妖怪として描かれていた。しかし、アニメ版では南方妖怪のボスとして登場。「そおーれ、人呼んでチ◯ポ3連噴射だっ!!」と叫びながら男性器からジェットを噴射しダイナミックに滑空する姿には、バカバカしさを通り越して清々しさすら感じられる。
しかし、この妖怪、その名前ゆえ、近年はコンプライアンスの犠牲者として名が知られている。
例えば、第5期では、なんと「ポ」に改名されてしまっている。いくら名前が酷いとはいえ、『千と千尋の神隠し』の「千」ばりの仕打ちだ。また、局部を画面に移すわけにもいかず、武器も口から吐く「ポービーム」が主な武器であり、チ◯ポの良さが完全に失われてしまっている。
そんなチ◯ポが再び脚光を浴びるのが、2018年から放送された第6期。本シリーズでは、OPからいきなり妖怪チ◯ポが綱引きをしているシーンが登場し(股間は他の妖怪の扇子で都合よく隠されている)、往年の視聴者の心をくすぐった。そして、第84話『外国人労働者チンさん』で満を持して本編に登場。それまでと変わらぬ勇姿を視聴者に披露してくれた。
この回に登場するチ◯ポは、日本で「楽チン」な生活をするために南の島から出稼ぎでやってくる「外国人労働者」という設定で、3期とは異なり、正義感にあふれる「いいヤツ」だ。来日早々ラーメン屋に入った彼は、客のチンピラが店主に絡んでいる場面に遭遇。チンピラを追い払うが、全裸であったために逆に警察に捕まってしまう。
その後、鬼太郎が身元引受人として警察にやって来て、チ◯ポは釈放。鬼太郎のバックアップのもと、就職活動に励むことになる。しかし、その名前のせいで、就職活動がうまくいかず、面接を受けても名前を口にするだけで落ちてしまう。
やっと就職が決まったと思ったら、就職先はとんでもないブラック企業。パワハラや過酷な環境でも必死に絶えて働いていたものの、同僚が過労で倒れたことで堪忍袋の緒が切れ、全裸になって上司に暴力をふるってしまう。なぜこの正義感がはじめから下半身に向かなかったのかと残念でならない。
加えて、名前が出せないという状況は5期と変わらない。ただ、本作では、名前のテロップの一部がなぜか木で見えなくなっていたり、「チン…」と名前を言おうとするたびに「ポ」イント3倍セールの街宣カーが通ったり、「ポ」ッポーという汽笛の音が入ったりと、名前を言おうとすると途中で邪魔が入るという描写により、なんとか回避している。また、作中には、「球技禁止」と書かれた看板やちんすこうなど、意味深なモチーフが多数登場。コンプライアンスを逆手に取った見事なギャグ回に仕上げられている。
なお、水木しげるは、チ◯ポがずいぶんお気に入りだったようで、『墓場鬼太郎』には、ラマからやってきた「高僧チ◯ポ」が登場。映画版となる『ゲゲゲの鬼太郎 異次元妖怪の大反乱』でも登場しており、わざわざ「HIGH PRIEST CHI◯PO」と英訳まで付されている(『墓場の鬼太郎』では「高僧トムポ」に改名。小説家の京極夏彦が声優を担当している)。
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