ドラマ史に残る怪演…新たな代表作に
長谷川博己『アンチヒーロー』(TBS系)
【注目ポイント】
2024年春ドラマの中で、“独走”といえるまでの話題作となっている本作。
このヒットの中心にいるのは、あるとあらゆる手段を使い、殺人罪ですら無罪にしてしまうダークな弁護士・明墨正樹を演じる長谷川博己の演技によるところが大きいだろう。明墨は、裁判にあたって、部下の赤峰(北村匠海)、紫ノ宮(堀田真由)のみならず、時にはパラリーガルの白木(大島優子)、青山(林泰文)をも使って、法律ギリギリの手段で検察が示した証拠を潰し、検察からも危険視されている、謎多き男だ。
長谷川自身は、父や妹が大学教授というインテリ家庭に育ちながらも、大学進学に1浪、本当は映画監督を夢見て日大芸術学部を志望していたものの、結局は中大文学部に進学。卒業度、文学座研究所入所でも1浪している苦労人だ。浪人の間にはADも経験している。
文学座を退いた後、活躍の場をテレビに移し、2010年、NHKで放送されたドラマ『セカンドバージン』や2011年の日本テレビ系ドラマ『家政婦のミタ』で注目され、その後、二枚目から悪役、コメディーと幅広い役柄をこなす俳優として実績を積む。そして2020年、『麒麟がくる』で主演し、ついに「大河俳優」となり、一流俳優の仲間入りを果たす。
撮影に入ると、役に入り込むタイプで、実際に裁判を何度も傍聴し、実際の弁護士を取材して撮影に臨んだ長谷川。収録直前まで1人で楽屋に籠り、一つひとつのシーンにこだわりを持ち、スタッフと話し合うこともあるという。
現場はピリピリムードが漂い、ある共演者によれば「冗談も言えない雰囲気」なのだという。台本を読み込むために夜更かししたためか、番宣のために出演する予定だった朝のワイドショーに寝坊し遅刻したのも彼らしいエピソードだ。
大河主演俳優として、1つの高みに上った長谷川だが、その過去に甘えることなく、さらなる代表作にするべく、自らにも妥協を許さないその姿勢こそが、本作での怪演に繋がっているのだ。