「好きっていう気持ちはお芝居ににじみ出る」ドラマ『世界で一番早い春』主演・吉田美月喜インタビュー。気鋭の女優が語る現在地

text by 山田剛志

女優・吉田美月喜が主演を務めるドラマ『世界で一番早い春』がMBSドラマ特区枠にて放送中だ。川端志季による原作漫画の世界観に深いリスペクトを抱きながら、役に向き合う吉田さんの言葉は真摯で芯のあるもの。インタビューでは、言葉で表現する難しさと楽しさ、そして俳優としての現在地を語ってもらった。(取材・文:山田剛志)

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役に入り込む鍵は“目の光”――川端作品に影響を受けた表現術

吉田美月喜 写真:武馬怜子
写真:武馬怜子

―――今回、吉田さんは漫画家であり、ひょんなことから高校時代にタイムスリップする主人公・真帆を演じられました。吉田さんはかねてより、川端志季さんの作品のファンだったそうですね。

「そうなんです、私、川端さんの漫画に出てくる“目が死んでいる描写”がすごく好きで。たとえば、先輩が亡くなったと知らされた時の真帆の顔とか──他の作品でも、ああいう目の表現にすごく惹かれてきました。なので、演じる上でもそこはヒントにさせてもらっていますし、実際に“目に光が入っていない”シーンでは、読むときも演じるときも意識して目線の動かし方を考えるようにしました」

―――原作はすでに読んでいたと思うんですけど、脚本を最初に読まれた時の印象を教えてください。

「もともと原作を読んでいたので、時間軸があっちへ行ったりこっちへ戻ったりする構成にも慣れていたんですけど、脚本ではそのあたりがすごくイメージしやすく整理されていました。回想シーンの入り方とかも自然で、原作と照らし合わせながら『この場面がこういうセリフになるんだ』と、想像するのが楽しかったです。シーンごとの“心の年齢”の持ち方が明確になっていたので、すごくやりやすかったですね」

―――脚本を読む時に行っているルーティーンのようなものはありますか?

「まずは、セリフのことはあまり考えずに、何度か一気に読んでいくんです。そうやってストーリー全体の流れを頭に入れるようにしています。脚本を読んでいるだけで泣きそうになる場面や、心が動くシーンってやっぱりあるので、読んで感じた“最初の気持ち”をすごく大事にしてます。

その感情が自分のキャラクターとしてのものなのか、一人の読者として客観的に感じたものなのかをあとで見極めて、もし客観的な感情だったとしたら、“私はこういうふうに感じた。じゃあ、キャラクターとしてそこにたどり着くにはどうしたらいいか”って逆算して考えるようにしています。そういうふうに組み立てる作業が、自然とルーティーンになっているかもしれません」

―――先入観抜きでシナリオに向き合い、初見時に生じた心の動きを大切にされているのですね。吉田さんのお芝居が観る人に感情移入をもたらすのは、今おっしゃったアプローチの賜物かもしれません。

「ありがとうございます。これまで私が演じてきたキャラクターって、わりと“親しみやすい”存在が多かったなと思っています。たとえば、すごく極端な例で言えば、サイコパスとか殺人鬼みたいな存在ではなくて、どこか共感できる部分があるような人。その“日常にいるような人物像”をとことん追求することで、観てくださる方にキュンとしてもらえたり、一緒に悲しんでいただけたりするのかなと思うので、そこはすごく意識するところですね」

――― 一方で、ファンとしては、今後、観る人が容易に共感できないようなキャラクターを演じる吉田さんも観てみたいです。

「感情移入する余地がないように見えるキャラクターに人間味を見つけたりすると、『お、こんなところ見つけた』っていう発見がありそうで、それも凄く面白そうです」

“好き”だからこそ、全身全霊で挑んだ――原作への深いリスペクト

吉田美月喜 写真:武馬怜子
写真:武馬怜子

―――今回、原作のファンであるからこそリスペクトが強すぎて、実写版で主演を務めるにあたって喜びと同時に葛藤もあったのではないかと想像するのですが、その辺の思いを伺えますか?

「まず、今回の原作である漫画が本当に素晴らしくて、それだけでひとつの世界として完結しているんですよね。だからこそ、それを“生身の人間”として演じることのハードルの高さがすごくあると思っています。

そういう中で、自分にできることは“とにかく全力でやる”しかないというのが、正直な気持ちです。もしも、どこかで『これはやらなくてもいいかな』とか『妥協してもいいかも』って気持ちが生まれてしまったら、“原作へのリスペクト”を欠くことになります。

だから私は、自分ができる限りのすべてを注ぐことが、その作品に対する誠意だと思ってます。それにやっぱり、原作が“本気で好き”という気持ちは実写化作品に出演させていただくにあたり、とても重要だと思っています。好きっていう気持ちは絶対にお芝居ににじみ出るし、観てくださる方にも伝わると思っているので、そこは常に大事にしながら演じています」

―――真帆にとって雪嶋は一言で定義できない存在だと思いました。異性として意識する存在であり、作家として尊敬する存在でもあり、であるが故に時には、創作に取り組む上で高い障壁に感じる存在でもある。真帆と雪嶋の関係をどのように捉えて、お芝居に落とし込みましたか?

「そうですね、正直、最初は雪嶋をどう捉えていいのか、すごく悩みました。もちろん“タイムスリップラブストーリー”というキャッチコピーに違わず、恋愛要素はあるんですけど、それだけではない関係性なんですよね。真帆が雪嶋に対して強くあたってしまう場面もありますし。そのことで後々すごく後悔することにもなるんですが、でも“ただ好き”っていうだけの存在だったら、何度もタイムスリップして助けたいと思い続けるような、そんな“心に残る存在”にはならないと思っていて。

そこにはやっぱり“尊敬”の感情もすごく入ってくるし、実はこの二人の関係性って、すごく深いものなんだと感じました。だから、『こういう関係性です』と言葉で説明するのがとても難しくて…。でも、そこがすごく魅力でもあるし、その“言葉にならないもの”を、少しでも表現できたらという気持ちで取り組みました」

藤原樹が雪嶋として現れた瞬間――“さすがだな”と思えた衣装合わせ

吉田美月喜 写真:武馬怜子
写真:武馬怜子

―――ちなみに吉田さんにとって、性別とか年代問わず、真帆にとっての雪嶋のように、お仕事面で刺激を受けている存在はいらっしゃいますか?

「この仕事をしていると、たくさんの俳優さんや女優さんとご一緒させていただく中で、すごく刺激を受けることが多くて。特別“人間観察”をしているわけじゃないんですけど、それぞれに全然違う演技スタイルや、現場での過ごし方があって。たとえば、自分のペースをしっかり守って役作りをされる方もいれば、現場の空気を読み取って、周囲との関係性の中で演技を作っていく方もいる。

そういうさまざまな姿を見るたびに、“あ、この方のこういうところ、すごく尊敬できるな”って思うんです。誰に対しても必ずひとつは『この人のここが素敵だな』って感じる部分があるので、それを見つけるのが今、すごく楽しいです。そうやって感じたものが、もしかしたら自分の中に少しずつ蓄積されて、プラスになってくれるかもしれない。だから、日々の現場でもそういうアンテナを張りながら過ごしています」

―――今回、雪嶋役の藤原樹さんと初めて共演されました。振り返っていかがでしたか?

「藤原さんって、いつもすごく落ち着いていらっしゃるんですよね。本当にお忙しいはずなんですけど、それをまったく感じさせないというか…現場ではいつも穏やかで、安心感のある存在です。年上だから、というのもあるかもしれないけれど、それ以上にご本人の性格なんだと思います」

―――川端作品のファンとして、雪嶋というキャラクターが具現化されて目の前に立ち現れているわけじゃないですか。そのあたり、現場で感じたことはありましたか?

「衣装合わせのときに初めて藤原さんにお会いしたんですけど、メガネをかけた姿を見た瞬間に『おっ!』ってなりました(笑)。私、藤原さんって勝手に“金髪のイメージ”が強かったんですよ。だから最初にキャストを伺ったときは、『えっ、あの藤原さんが雪嶋を?』ってちょっと意外に思っていて。

でも、実際にお会いしてメガネ姿の藤原さんを見たら、本当にそのまま“雪嶋”が目の前に立っているようで。あの空気感や雰囲気が自然にそこにあって、びっくりしました。『さすがだなあ』と思いましたし、どんなスタイルでも似合ってしまうのが本当に素敵だなと感じました」

“言葉”と向き合う楽しさと難しさ――ポッドキャストで再認識した伝える力

吉田美月喜 写真:武馬怜子
写真:武馬怜子

―――以前、別の作品で吉田さんにお話を伺ったことがあって、その時もご自身の考えをとても明晰に言葉にされていて、すごく感銘を受けました。取材後、同席していたカメラマンの方と「吉田さんって、人生何回目なんだろうね」なんて軽口を言い合っていたんですが、『世界で一番早い春』の設定を聞いた時に、真っ先にそのことを思い出したんです。

「えっ、それ予言されてました?(笑)でも、そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。もともと、小学校6年生までは学校で“日記を書かないといけない”っていう決まりがあって、毎日書いてたんですけど、中学に入ってからはそういう宿題がなくなっちゃって、自然と書かなくなったんです。でも最近、10分間くらいの短いポッドキャスト番組を始めまして、“言葉で伝えること”の楽しさと難しさをすごく感じるようになり、そこからまた、日記──といっても本当に内容はぐちゃぐちゃなんですけど(笑)──を書くようになりました。

『今日こんな面白いことがあったから、誰かに伝えたい』って思っても、やっぱり話し方が整理されていないと、時系列がグチャグチャになって、ちゃんと伝わらなかったりする。だから、“どういうふうに話したら伝わるかな”って考える時間は、以前より増えた気がします」

―――そういう時間は、今後、役者として活動する上で糧になるのではないでしょうか。

「そうですね、なったらいいなって思いながらやっています。私はけっこう“話すこと”が好きで、テンションが上がるとつい『わーっ』としゃべっちゃうタイプなんですけど、そうすると結局「…あれ? 私、何の話してたんだっけ?」ってなることも多くて(笑)。なので、そうならないように──ちゃんと整理して伝えられるように──少しずつ“話す訓練”をしているところです」

―――今回も、素敵なお話をありがとうございました。

(取材・文:山田剛志)

ヘアメイク::田中陽子
スタイリスト:有本 祐輔(7回の裏)
衣装クレジット
ドレス
¥63,800
Arobe / アローブ
サンダル
¥24,200
ALM.
イヤリング
¥90,200
KAORU / カオル
ブレスレット
¥62,700
KAORU / カオル

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【了】

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