道兼の覚醒
道隆の独裁には拍車がかかる一方、どんどん落ちぶれていくのが道兼(玉置玲央)だ。汚れ仕事を買ってまで父である兼家に尽くしてきたが、後継に選ばれなかった。その父も亡くなり、妻と子供にも捨てられて意味を見失った道兼が取った行動は、まさかの“家出”。道長が公任(町田啓太)から「実は道兼殿が我が家に居座ってしまわれ……」と相談されたことで発覚した。
前回の予告で「お前、俺に尽くすと言ったよな?」と不敵な笑みを浮かべてきた道兼。公任を利用し、道隆に反旗を翻すのかと思っていたら、ただの家出とは。この頃、道兼の年齢はすでに30歳。なのにやっていることは、中高生と変わらない。呆れると同時に、愛おしみが湧いてくる。
そんな道兼だから、弟である道長も放っておけないのだろう。公任の家に入り浸る道兼をわざわざ迎えに行き、「兄上はもう父上の操り人形ではありません。己の意志で好きになさって良いのです」と声をかける。
幼い頃から兄弟の中で不遇な扱いを受けていた道兼に、怒りの矛先を向けられていた道長。道兼は愛するまひろの母親の命を奪った張本人でもあり、当然、憎い気持ちはあるはずだ。
だが、道兼がそういう非道な振る舞いを取るのは兼家に認められたい一心であることを道長は知っている。父親に対する愛憎渦巻く感情も理解できるのだろう。そんな父も、もうこの世にはいない。
「兄上は変われます。変わって、生き抜いてください。この道長がお支えいたします」
以前、道兼に道隆がかけた「お前を置いてはゆかぬ」という言葉とは違い、道長の誠意がこもった言葉は凍てついた道兼の心を溶かす。積年の思いが溢れ出す玉置玲央の泣きの演技に心を打たれた。
しかし、道兼が多くの人を苦しめてきたことは事実。史実では、道隆亡き後に道兼が関白職を継ぐが、わずか7日で病没する。それまで己の罪とどう向き合っていくのか、見ものだ。ちなみに道兼が世を去った後、道長と伊周の間で跡目争いが勃発する。今回、描かれた2人の競べ弓はその伏線となっていた。