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「LGBTQの問題には特定の悪者がいるわけではない」
現実の問題を矮小化しないように意識した

撮影武馬怜子

―――映画監督のふくだももこさんが本作に寄せたコメントによると、最初はご自身で監督をする予定ではなかったのだとか?

「そうなんです。元々、俳優しかやったことがなかったので、監督は別の方に頼むつもりでした。実際に、『この人に監督をしてほしい』と思った方の名前をリストアップして、依頼するところまで動いていました。ふくだももこ監督もその1人なんです。実はそれまで一度もお会いしたことなかったんですけど、『おいしい家族』(2019)がとても好きで、将来一緒に仕事をしたい人リストに入っていて、ダメ元で企画書にラブレターを添えてメールをお送りしたんです」

―――ふくだ監督からのお返事は?

「忘れもしない、朝の9時ごろだったかに、知らない番号から電話が掛かってきたんです。寝起きで電話に出たところ、「ふくだです~」の第一声で一気に目が覚めました…(笑)。『スケジュールが合わずお受け出来なくて申し訳ない』ということでしたが、続けて『これは黒川さんが監督をした方がいい』と仰ったんです」

―――ふくだ監督の言葉が初監督への挑戦を後押ししたのですね。

「ふくだ監督からは、「これだけ想いのこもった企画書を読んで、凄く胸が熱くなりました。私は応援したいし、頑張ってほしいって思うから、ご自身で撮られるのはどうですか?」という言葉をいただきました。実はそれ以前にも、『脚本を書くのだったら自分で撮るのはどうか?』という提案をされたことはあったのですが、俳優と演出家はまったく畑が違うし、あまりピンとこなかったんです。でも、ふくだ監督から直接励ましの言葉をいただいたことで考えが変わり、『自分で監督しよう』と決心しました」

―――取材前の雑談で「最初は長編の脚本だった」と伺いました。短編にシフトされた経緯をお聞かせください。

「元々は90分ほどの長編を想定していたのですが、2022年に日本初の同性婚をテーマにした短編映画祭『レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル』が開催されると知り、本作のテーマと密接にリンクしていることもあり、ぜひ同映画祭に出品したいと思ったんです。長編から短編に再構築するにあたっては、長編のワンシーンを深掘りする形で脚本を書き直しました」

―――主人公の梨沙はパートナーと暮らしていく中で、満たされない思いを抱えています。シナリオの方向性として、恋人・匠(竹石悟朗)を悪者にするという選択肢もあったと思うのですが、あえてそういう風に見せてないところに感銘を受けました。

「ありがとうございます。LGBTQの問題には、特定の悪者がいるわけではないんです。ご指摘のとおり、シナリオの初期段階では、匠が浮気をするという展開がありました。でもそれだと男の人が悪いって話になるし、だから女性に逃げたっていう風に見えてしまう。それだけは絶対に避けたいと思ったんです。梨沙には梨沙の生き方があると同時に、匠にも彼なりの生き方がある。ドラマを盛り上げるために悪者を作ることで問題を矮小化したくないという点は明確に意識しましたね」

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