家族ゲーム 脚本の魅力
原作は本間洋平が1981年に発表した同名小説。脚本も務めた森田芳光は、原作の要素を活かしつつ、終盤の展開をはじめ、随所に改変を施すことで、ものの見事に自分の世界観に昇華している。
原作において茂之(宮川一朗太)は、第一志望の学校を受験せず、第二志望の高校を受験して合格を果たす。一方、映画版では茂之の志望校変更を阻止するために「吉本が学校に乗り込む」という展開が用意され、見せ場の一つとなっている。
また、クライマックスの食卓シーンは原作には存在せず、映画オリジナルである。それに伴い、吉本のキャラクターも原作と映画とでは全く異なる印象を与える。原作では、進学を果たした茂之はすぐに不登校になり、第一志望だった高校への再受験を希望する。母の千賀子(由紀さおり)から再び家庭教師を依頼された吉本は「環境を変えないかぎり、茂之は変わらない」と拒否。ここで言及されている「環境」とは「家庭」のことであり、原作の吉本は言葉によって沼田家を直接的に批判しているのだ。
一方、映画版の吉本は、茂之の受験成功に浮かれる沼田家の面々に鉄拳制裁を加え、離別する。吉本が暴力を振るう理由はセリフによって説明されないため、唐突で理不尽な印象を与える。しかし原作の吉本のセリフを参照することで、沼田家の体質を抜本的に変えるための「愛の拳」であると、解釈可能なのだ。
このように、本作の脚本は説明性を欠いているため、一見ナンセンスに思える部分も多い。しかし、原作に目を通したり、二度三度と鑑賞を繰り返すことで味わい深さを増すのだ。