家族ゲーム 映像の魅力
映画のロケ地となった豊洲エリアは、都心から隔絶した工業地帯であり、ベッドタウンとして活気を放つ現在の有り様とはまったく表情が異なる。当時は地下鉄が未開通であったことから、吉本は小型船に乗って沼田家の住む高層マンションにアクセスする。
日活出身の名手・前田米造のカメラは、埋め立て地にそびえる高層マンションを、船上に立つ吉本の背中越しから映し出すことで、従来の伝統から切り離された新しい家族のあり方を鮮やかに予告する。と同時に、マンションに接近していく船上の吉本をもフレームに収めることで、家族という名の共同体に異物が入り込むことによって巻き起こる波乱の予兆も抜かりなく画面に定着している。
とはいえ、決して映像美で魅了する類の作品ではない。画面比率はアナクロテレビなどで採用されていたスタンダードサイズであり、迫力のある映像よりも行き場のない閉塞感が強調されている。もちろん、それは作り手の狙いに沿った画面設計である。
本作では食卓シーン以外にも、吉本と茂之が勉強に励むシーン、孝助と吉本、あるいは孝助と千賀子が自家用車に乗って会話を交わすシーンなど、横並びの人物が肩を寄せ合ってコミュニケーションをはかる場面が頻出する。タイトなスタンダード画面は、至近距離で交わされる息が詰まるようなやり取りの緊張感を高めるのに寄与しているのだ。