ホーム » 投稿 » 日本映画 » 劇場公開作品 » 「簡単に赦せるわけがない…でもその先にあるものが見たかった」殺人の被害者遺族役で葛藤。映画『赦し』主演・尚玄インタビュー » Page 3

「家族が同じような目に遭ったらきっと赦せない」
役を演じることでその先にあるものを見たいと思った

写真宮城夏子 衣裳提供BOSS

――エンディングも非常に印象的でした。完成した映画をご覧になって、どのようなことを感じましたか?

「克の選択が“赦し”なのか、そうでないのかは、観る人によって多様に解釈できると思いました。監督が提示したエンディングは、確信犯的な曖昧さを含んでいると思います。克は今後どういう道を歩むのか、そして澄子は今後どういう人生を歩んでいくのか。登場人物の“その後”を暗に示唆するような不思議なラストです。監督のセンスを感じます」

――作品のタイトルは『赦し』となっていますが、同じようなケースで苦しむ被害者家族が現実にいらっしゃいます。その方々にかける言葉があるとすれば、それはどんな言葉で
すか?

「企画のお話をいただいた時、僕自身、家族が同じような目に遭った時に赦せるかって言われたら、簡単に赦せるわけがないと思いました。だからこそ役を演じることで、その先にあるものを見たいと思ったんです。

果たして、酒に溺れて人生を台無しにしている父親の姿を亡くなった娘が見たいと思うのか、彼女はそれを望んでいるのか。克は物語を通して様々な葛藤に直面します。これはあくまで僕が当事者の方に掛ける言葉ではなく、役を演じる上で感じたことですが、過去にとらわれ過ぎないということも、亡くなった娘に対する誠実な態度としてあり得るのではないか。

先ほども言いましたが、克の選んだ道が“赦し”なのか、そうではないのかは、観ていただいた方一人ひとりが判断していただければと思います。でも、裁判を通して、克は、物語の初めとは明らかに変わった部分があると思いますし、僕の中でも役を演じ切ったことで多少見えたものはありました」

――この作品を通じて、俳優としてではなく、一人の既婚男性として、未成年犯罪に対する考え方に変化はありましたか? 最初に脚本を読んだときに「加害者を赦せないと思った」と仰いましたが、変化があったとすれば、それはどのような変化ですか?

「役を演じる前は、あくまで被害者の視点で事件を見ていたと思うんですけど、その中で、夏奈という人物と向き合って、彼女を赦すのか、赦さないのかという決断を迫られた時に、未成年で罪を犯してしまった彼女だからこそ、同じような苦しみを持つ子供達のためにできることがあるということにも気づいたんですよね。

劇中でも明らかにされますが、克は自分の娘がイジメの加害者であったことを知らなかったわけです。自身や妻がそれに気づけなかったという現実もある。うん、何でしょうね…難しいですけど、実際、自分身に起きた時、そこまで事態を客観的に見られるかと言われたら正直、分からないです。ただ、この映画を観ることは、他者に対して想像力を働かせることの大事さに気づく、一つのきっかけになるのではないかと思います」

――これから映画『赦し』を見る方々へ、メッセージをお願いします。

「先ほどの話に通じますが、自分だけの正義ではなく、他者に対して想像力を働かせる、思いやりといいますか、そういう気持ちをみんなが持てれば、少しでも社会は良い方向に進むのではないかと思っています。

“赦す”、“赦さない”という判断はその上でなされるべきなのかもしれません。他者を知ろうとする気持ちをこの映画から感じ取ってもらえたら嬉しく思いますね」

(取材・文:寺島武志)

映画『赦し』は3月18日よりユーロスペースほか全国順次公開

【作品情報】

監督・編集:アンシュル・チョウハン
プロデューサー:山下貴裕 茂木美那 アンシュル・チョウハン
エグゼクティブ・プロデューサー:サイモン・クロウ ランカスター文江
アソシエイト・プロデューサー:前田けゑ 澤繁実 岡田真一 木川良弘
脚本:ランド・コルター
撮影:ピーター・モエン・ジェンセン
音楽:香田悠真
出演:尚玄 MEGUMI 松浦りょう 生津徹 成海花音 藤森慎吾 真矢ミキ
助成:文化庁
製作プロダクション:KOWATANDA FILMS、YAMAN FILMS
配給:彩プロ
2022年/日本/日本語/カラー/2:1/5.1ch/98 分/原題(英語題):DECEMBER
©2022 December Production Committee. All rights reserved
映倫:G区分
公式サイト

【関連記事】
映画『赦し』は面白い? 娘を同級生に殺された遺族の葛藤を描く。忖度なしガチレビュー《あらすじ キャスト 考察 解説》
映画『Winny ウィニー』は面白い? 東出昌大主演の問題作を徹底解説。忖度なしガチレビュー《あらすじ キャスト 評価》
映画『茶飲友達』は面白い? 忖度なしガチレビュー。高齢者売春クラブをテーマに描いた静かな衝撃作【あらすじ 考察 解説】

1 2 3
error: Content is protected !!